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「落下の解剖学」監督ジュスティーヌ・トリエ at TOHOシネマズ梅田

映画『落下の解剖学』公式サイト

昨年のカンヌパルムドール

フランス、グルノーブルの山小屋風の邸宅が舞台。

グルノーブルといえばルルーシュ白い恋人たち」('68)。

 

 

 が、本作にはフランシス・レイの名曲に載せた華麗なスキー競技シーンとは無縁、不穏な大音量のラテン音楽がその場に居合わせる人間関係を壊して行く。

少年が愛犬を連れて散歩に出かける。サングラスをしているのは雪が眩しいからと思って観ていたら、違った。この辺りの見せ方は秀逸。

さて、その少年ダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)が散歩から戻ると家の前に横たわる父の死体に遭遇してしまう。

邸宅の二階にいたはずの父サミュエル(サミュエル・テイス)は故意ではなく転落したのか、それとも誰かに突き落とされた他殺か。

真っ先に疑われたのは一階で学生からインタビューを受けていたサミュエルの妻で作家サンドラ(サンドラ・ヒューラー)。

サンドラは早速弁護士(スワン・アルロー)を雇うが、程なく彼女は起訴される。

 ヒッチコックの「断崖」('41)のような展開に持ち込むのかと思いきや、本作の中心に据えられたモチーフは「夫婦関係の崩壊」であった。

姓名の名を夫婦を演じる俳優の名をそのままに当てているのは、洒落ではなくこのドイツ人の妻とフランス人の夫の関係を描く上で必要としたのであろう(脚本はトリエ監督オリジナル)。ニュアンスとしてドイツ人、フランス人の気質の違いも感じる。

 中盤から法廷劇となり、やがて真相が詳らかになって行く。

ネタバレになるのでこれ以上の内容は伏せるが、何とも言えず薄情な感じがするサンドラの人物造形が見事だ。決して善人、悪人の二分法では割り切れない。

その立ち振る舞いはひよっとしたら大どんでん返しがあるのでは、とさえ思わせる。

ダニエルの愛犬スヌープが名演、と思って観ていたがカンヌで賞まで取っていた。

www.hollywoodreporter.com

 観終わってカタルシスがある訳ではない。それでもこの特に珍しい関係でもない夫婦というものを繊細に描いた手腕は見事。

平日の梅田、満席だった。