映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「縁路はるばる」監督・黃浩然(アモス・ウィー) at 映画美学校試写室

伊丹空港よりNH24便で羽田空港着。


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 2021年香港映画。

近年の香港はドキュメンタリーで知る催涙ガスと血の雨といった、中共の弾圧に苦しむ民衆というイメージで、習近平体制への反発も含めて、気軽に遊びに行こうという気持ちが失せてしまい、「かつて愛した街」でしかなくなっていた。

 本作は、携帯アプリを開発する28歳、風体の平凡な青年ハウ(カーキ・サム)と、行く先々で出会う女性との日々を飄々と描く。催涙ガスの爪痕はどこにも見当たらない。

 ハウの知り合う女性はなぜか皆香港の郊外に住んでいて、デートの度に彼は車で彼女たちを家の近くまで送って行く。大陸との境界が近いのか、進入禁止の地区に住んでいる人もいる。

 ハウの運転する車は当初は先輩から借りたBMWだが、のちに自分で買ったのがスズキのスイフト。そういえばアルモドバルの「パラレル・マザーズ」(2022)でもペネロぺ・クルスがスズキのジムニーに乗っていた。世界的潮流なのかスズキ。

この車に乗って地図イラスト付きで知られざる香港の島々を巡る観光案内ムービーとして楽しめる作りになっている一方、湿気と熱気と雑踏といった香港魔界の風情は皆無である。あのエネルギッシュな雑踏はもう過去のものなのだろうか。

 次から次へと「アルフィー」('67)のマイケル・ケインの如くパートナーを求めるハウに、そんなに結婚を焦るもんなのかねと少し前の日本のテレビドラマの匂いがしてやれやれな展開が続くのだが、ラスト近くになって私は自らの不見識を恥じる。

ハウと同級生の女の子によって「催涙ガス以後」の彼らの諦観と絶望が語られる。そこには何とかしてパートナー=結婚相手を見つけなければという焦りの理由の一端があったのだ。

延々とキャメラが香港じゅうを周って見せたこの映画の意味が読み取れて切ない。彼らはどんよりと陽の差さない政治の現実を受け止めている。

軽いラブコメディの最後の最後にチクッと刺してきた、香港の今がここに。

5月19日より新宿武蔵野館ほか全国公開。

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