映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「別れる決心」監督パク・チャヌク at TOHOシネマズ西宮OS

 

 

 2022年度カンヌ国際映画祭で監督賞。

切り立った渓谷、ロッククライミングの果ての事故死かと思われる、60歳がらみの被害者には不釣り合いな妻がいた。その妻を取り調べる刑事。

取調べの合間の昼食に取った弁当が高級寿司。同僚刑事が何だあの弁当は、と訝る。独特の食べ方、寿司の人肌のような艶かしさ。単なるエコひいき、気を引こうとしているにしては手が込んでいてこれまでの韓国映画に出て来る粗野な刑事と一線を画す。オカシイ、何なのだ。

 多用されるジャンプカット、先の読めない展開、不意に挟まる刑事の妄想。

鈴木清順だなとゾクゾクする。観客の、ストーリーを追おうとする意識と倫理をキリキリと宙吊りにして眩暈を起こさせるのも清順っぽい。眩暈、とつい書いたがヒッチコックの「めまい」('58)が元ネタじゃないかと気がつく。

パク・チャヌクの好きな映画に清順「殺しの烙印」('67)と「めまい」入ってる↓

mubi.com  刑事(パク・ヘイル)が週末婚だと言う妻と性行為に励むのに、被疑者(タン・ウェイ)には捜査という名のストーキング行為、そして結局何がしたいのか分からない二人の眼差しの交叉が観客を置いてけぼりにする。拘る「手」。手が性器でその交わりを官能的に見せることで直截な描写への期待をはぐらかす。確信犯的に描かない。そして手を繋ぐとは何と素敵な事なのだろう。まして手錠を掛け合うなんて。

 ある種の愛のかたち、情動を封鎖して立て続けに結婚する女への偏執、いや妄執だな。ここに乗れるかかどうかで評価は別れるだろう。

 そして女は果たしてこの世に居たのかすら怪しいラスト。溝口の「山椒大夫」('54)の入水が脳裏をかすめた。プールの死体は「サンセット大通り」('50)か。

シネフィル・チャヌク監督の引用故の強引な設定は歪だが強靭、そして美しい。

この妖しい妄執の塊は、穿った見方をすれば合成甘味料たっぷりの嘘くさい情愛を量産する韓流ドラマへの嘲りと揶揄かも知れない。