映画、ドラマのロケが多いのも宜なるかな。尤も私もあわよくば、という気で見に来たのだが。
「ドライブ・マイ・カー」監督・濱口竜介 at 109シネマズHAT神戸
dmc.bitters.co.jp 村上春樹の原作は未読。
冒頭のアバンタイトルの字体のセンスが秀逸。本作とは全然関係ないがルルーシュの「男と女」('66)の風景に重なるフランス語の字体に似ている気がした。
東京と思しきマンションの一室、逆光で良く顔の見えない女のつぶやく物語を寝物語で聴く男・家福悠介(西島秀俊)。彼は演劇関係者のようで、「ゴトーを待ちながら」の舞台に立つ。演出家も兼ねているようだ。女(霧島れいか)は悠介の妻で名前は音と言う。テレビ関係の仕事をしているようだ。
悠介の舞台の楽屋に、音は若い俳優・高槻(岡田将生)を連れて来て紹介する。悠介はロシアに審査員の仕事で旅立たなければならない。愛の存在を疑いようもない家庭から愛車の赤いサーブに乗って空港に向かった悠介。しかしフライトの都合で飛行機は飛ばず、家に引き返す。
悠介が玄関のドアを開けると妻の悦楽に溺れる嬌声が聴こえる。相手は高槻のようだ。悠介はドアを閉め、空港近くのホテルの部屋からパソコンを使って妻と話す。
「ウラジオストックに無事着いた」平然と嘘をついて感情を表すことなく会話をかわす悠介。
夫婦関係のありようは様々だが、この映画は手垢に塗れた倫理観をここで崩すことで進んで行く。
悠介が演出する舞台もまた多言語が入り乱れる。韓国語、英語、中国語、さらに手話。それらが有機的に会話として成立する筈もないのに平然と進行していく。
観る側はここで「あるべき倫理性」から解き放たれる。いや、そんな訳ないだろう、妻が不貞をはたらいたら怒り狂うだろう、言語が通じない演劇なんてあり得ないだろう、と思う者は置いて行く。
悠介の妻・音は突然死ぬ。悠介がいつ妻の不貞を持ち出し責めるのだろうかというスリルはここで断たれ、そういう物語の定形はここでも崩される。濱口竜介の「そう簡単には行かない」表現という名の掌の上で右往左往する愉しみが始まる。
東京から広島の演劇祭に赴く悠介は運転手を充てがわれる。当初は愛車の運転を他人に任せることを拒否する悠介だが、演劇祭の決まりだとスタッフに押し切られる。
その運転手・渡利(三浦透子)は左頬に傷があり、視線は常にどこか遠くを見ているかのようで全く対話者を見ない。故郷は広島ではなく北海道の寒村だと言う。
倫理からの解放はあちこちで炸裂し、悠介は殺人事件をきっかけにある決着を迫られても心の声に従って渡利を伴って彼女の故郷に向かう。
フェリーの中のテレビの音声、波濤を蹴る船の音、風。そこからふっと無音の雪景色になる。悠介、そして渡利のそこにいる必然を補強する静寂に不覚にも感動してしまう。
未だ観ぬ人の為にエンディングは伏せておくが、運転手・渡利があの姿でまたしても「そこにいる必然」を観客はここまでの展開をヒントに想像しなければならない。その行為は豊穣なる映画体験と言える。
3時間観終わって、心揺さぶられる感動とも違う、新しい世界に啓発されたかのような爽やかな気分が半日経ってもまだ持続している。
お勧め。
朝来市内 近代建築巡り
神子畑選鉱場跡
コロナ禍で県外に出ない探訪を始めたが、明治時代から1980年代まで富国強兵、戦後復興、高度経済成長の道を歩んだ産業遺構の力強さ、その優れたデザインと贅を尽くした気品は時代の栄耀栄華をいまに伝えている。
朝来市和田山法興寺「FUDABA Kitchen」
「チャオ」JR太閤口店
品川駅よりのぞみ9号で名古屋駅着。
春日井市内某所で映画企画打ち合わせ。
打ち合わせ終了後名古屋駅に戻って、
スパゲティハウスチャオ公式ホームページ - 名古屋名物あんかけスパゲティハウスチャオ
名古屋駅よりのぞみ87号で帰神。
「浜の朝日と嘘つきどもと」監督タナダユキ at テアトル梅田
公式サイト、スタッフに照明技師の名前があるのにキャメラマンの名前が無い。何か事情があるのか。
福島県南相馬市。本編の舞台になる朝日座は実在する映画館らしい。
朝日座を舞台とした映画「浜の朝日の嘘つきどもと」/南相馬市公式ウェブサイト -Minamisoma City-
フィルムの端切れを燃やしている館主(柳家喬太郎)、やって来たヒロイン・浜野あさひ(高畑充希)がそれを制止、奪ったフィルムのコマを見て古いサイレント映画のタイトルを言う。映画マニアであることを示しているのだろうが、それは淀川長治レベルじゃないだろうか。
閉館を決意した館主だが、何故か懸命に存続を訴えるあさひ、その理由が徐々に分かって来るという構成。
チラリとのぞく女の本音が絶妙に面白いのがタナダ監督作品の最大の魅力で、本作では好きな男には滅法だらしないが、己の感覚に忠実な教師・茉莉子(大久保佳代子)が可愛くてカッコ良い。
真理子はあさひに映画が好きになるきっかけを与え、その後の彼女の心の拠り所になるまさしく恩師の理想形。本作には過去の日本映画が何本か登場するがこの恩師の存在というのも日本映画の重要なモチーフだなと気付く。
登場人物の家族が皆離散していたり、未成年者略取誘拐、入管法など現代事情を細かく盛り込む一方、コロナ禍が語られるのに誰もマスクをしないで映画館に入って行く瑕疵も。
カットを割らずにツーショットの芝居を間合い良く見せる面白さはあるが、ラストの大団円は唐突。
最後に竹原ピストル、顔見せゲストかと思いきや「後日談ドラマ」の主役らしい。
「浜の朝日の嘘つきどもと」福島中央テレビ開局50周年記念オリジナルドラマ