映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「潜水服は蝶の夢を見る」監督ジュリアン・シュナーベル at シネカノン有楽町

ジャン=ドミニク・ボビー(マチュー・アマルリック)42歳、世界的なファッション雑誌「ELLE」の編集長は脳梗塞で意識不明の重体に陥る。3週間の昏睡から目が覚めると、肢体の動きは麻痺しており、言葉も発することが出来ない。視覚はあるのだが、右目を手術で塞がれてしまう。やがて彼はまぶたの動きで自らの意志を表現することを覚える…というお話し。こう書いてしまうとただの難病克服記だがこの映画、主人公の片目で見えている世界で表現されて行くのだ。
しかもその視界は「あるがままに見えている世界」ではなく、幻想と甘美な思い出がないまぜになる、「彼の見た世界」となっているところが実に秀逸。風のように揺れ、波のようにさざめくキャメラが素晴らしく、誰だと思ったらスピルバーグの片腕ヤヌス・カミンスキーが撮影監督。ジャン=ドーはやがて元妻や理学療法士のサポートでまばたきだけで言語を発することを始める。それは彼のこれまでの人生を語る小説「潜水服は蝶の夢を見る」として綴られて行くのだが、ある偶然によってベイルートで不条理な人生を送ることになった男が抜き刺し難くトラウマとなっており、それは「誰にでも起こりうる不条理」としてこの難病と合わせ鏡になっている。人生って、と我が身をも振り返らせる傑作。お勧め。