映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「休暇」監督・門井肇 at 三宮シネフェニックス

 原作は吉村昭。オープニングは死刑執行命令書に法務大臣が印鑑を押すシーン。続いてある刑務所。刑務官達の弛緩した日常から始まり、やがて収監されている死刑囚・金田(西島秀俊)の暮らしぶりが描かれる。書類に記された「強盗殺人」という罪状と、被害者と思しき老夫婦の亡霊以外、彼が犯した罪の行状は描かれない。刑務官の中には新人もいれば定年間際の者もいる。新人は定年に訊く。「(死刑の)執行やったことありますか?」不味そうな蕎麦といなり寿司を頬張りながら定年は答える。「あるさ、何度も」。刑務官の一人、平井(小林薫)は結婚を控えている。相手は6歳の子を持つ女(大塚寧々)。恋慕があった訳ではない、何か必要に迫られたような見合い結婚だ。やがて金田に刑の執行日が決まる。絞首刑にされる囚人が、死刑台の下に落ちた時、抱きついて支える「支え役」をやると刑務官は1週間の休暇がもらえる。平井は、この支え役を志願する…というお話し。
 脚本の構成力が素晴らしく、平井が支え役を志願するに至る感情の流れの描き方には胸が熱くなった。また、際立つのは俳優達、これは推測なのだが、西島秀俊が妹と面会するシーンの長い沈黙、死刑執行前の震え続ける表情…これらの長い長い間合いは、彼本人の判断のように見える。
 一方、執行直前、全ての感情を押し殺している小林薫の目つきにも慄然とした。凄い俳優だ。
ゆったりとしたリズム、グレートーンの色のないルック、死刑存廃論の予断を挟ませない精緻なリアリズム演出と俳優達の相当ハイレベルな力量のアンサンブルに陶然とした。
お勧め。