映画和日乗

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「美代子阿佐ヶ谷気分」監督・坪田義史 at 三軒茶屋中央劇場

 安部慎一という実存する漫画家の作品の映画化。不勉強で私はこの作家のことを知らなかった。従って予備知識なし。
この安部慎一(演じるのは水橋研二)、究極の「私」作家で、妻美代子(町田マリー)をめぐる実際に起きた身の回りのことしか描かない、いや描けない。時にオチも何もあったものではない作品を描くが、雑誌「ガロ」の編集者松田(佐野史郎)はそれを面白がり、作品を掲載し続ける。しかし精神に異常を来した安部は、故郷福岡へと居を移す。周囲と連絡を絶っていた安部だが、狂気の中で見る妻や愛人とのかつての情交へのこだわりは新しい作品となっていた…というお話し。
 1970年の阿佐ヶ谷、タイトル通りその「気分」が良く出ている。そのデジタルビデオ撮影は、少し引き目の構図になると8ミリフィルムのようなルックになる。狭いアパートでの男女のやりとりや爆弾テロリストの純情に'70年代に見た有名無名の8ミリ、16ミリ作品が大勢の亡霊のように重なって見えた。長崎俊一の「映子、夜になれ」('79)とか「闇打つ心臓」('82)、山川直人の「ビハインド」('78)、「アナザサイド」('80)とか。あるいは橋浦方人「青春散歌 置けない日々」('75)か。坪田監督という方、1975年生まれということはこの作品の時代の実際を知らないはずだし、前述の自主映画も同時代では見ていないことになる。それでこれだけの「既視感」が描けたのだから見事、天晴だ。同世代かと思ったくらいだ。
「特攻任侠自衛隊」('77)の飯島洋一、久しぶりにスクリーンで見た。

美代子阿佐ヶ谷気分 [DVD]

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