映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「大鹿村騒動記」監督・阪本順治 at シネリーブル神戸

「KT」('02)以来の阪本順治、脚本・荒井晴彦のコンビ、糅てて加えて主演・原田芳雄の遺作となった。余命を知っての企画であることは薄々感じてはいたものの、こうしてスクリーンに正対するとなると厳粛な気分にならざるを得ない。
が、だ。映画は心地よい軽みのコメディであった。阪本監督の言葉を待つまでもなく、フェリーニ「ジンジャーとフレッド」('86)と「アマルコルド」('73)をすぐに想起させる大鹿村の大人達の胸騒ぎと大騒ぎ。大人達、というところが肝心でどの登場人物も苦い過去を持つ。若い瑛太でさえも「足をつって失敗した」過去がある一方、最長老三國連太郎に至ってはシベリア抑留という重い過去を持つ。忘れない三國に対して、過去を病で忘れてしまうその娘・貴子(大楠道代)を巡るふたりの大人、善(原田芳雄)と治(岸部一徳)の村歌舞伎への捨て難き情熱がストーリーの中心となっている。歌舞伎は原田芳雄にとっては映画づくりのメタファーでもあり、大鹿村というよそ者を受け入れ、放浪者が帰還する村は、呑み友達が自然に集まる原田芳雄の家そのもののメタファーでもある。
低予算、2週間のロケでありながらどっこい35ミリフィルムでの撮影、見事なフルショット(舞台がはねた後、化粧のまま貴子を待つ善のカットは泣けるほど素敵だ)にここぞと決める原田芳雄の一世一代のアップが挟まり、心意気が伝わる映画を見ている幸福感に浸れる。
1,000円均一興行、映画館は満員。もう邦画は全て1,000円で良いのではないか。
素晴らしき遺作、必見、そして合掌。有り難うございました原田さん。
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