映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「東ベルリンから来た女」監督クリスティアン・ペッツォルト at テアトル梅田

昨年度のベルリン国際映画祭銀熊賞、監督賞受賞作品。
ベルリンの壁崩壊の9年前、という時代の東ドイツ。東ベルリンから田舎町に配属された女医バルバラ(ニーナ・ホス)。シュタージの監視が付き、人権蹂躙も甚だしい家宅捜査や身体検査に耐えなければならない。西側に彼女と通じた人物がおり、暗号めいた指示でお金を受け取り、来るべき脱出の時を待っている。勤務する病院には諦観に満ちあふれた人々ばかりだが、主任医師アンドレ(ロナルド・ゼアフェルド)はインテリで優しい人柄。だが、彼もまた体制側に通じており、バルバラについてシュタージに報告しなければならない義務が課せられている。バルバラは西側にいる彼氏から「決行」の日を告げられる。しかしその日いくつかの事件が起きる…というお話し。
フィックスで捉えられる人々の無表情。一転、ヒロインが強風の中自転車で駆け抜けるカットの躍動感。監視されている彼女の抑圧の世界に引き込まれ、息苦しさが伝わる。西側からベンツに乗ってやって来ることが出来る彼氏の設定がよく分らない。「僕が東側に引っ越そうかな」などと暢気且つ無神経なことを言う。運転手は金で抱き込まれているのだろうか。そんなことが可能なら彼女を強引にでも連れ去れば良いのでは、と思うが当時のシステムはここでは開示されない。この作品がドイツ国内そしてベルリン国際映画祭喝采を浴びたということは、そういう描写も含めて彼等の事情が極めてリアルに描かれているからであろう。ドアベルの音、壁の向こう側の声、聞かれたくない(盗聴されている可能性)話しのヒソヒソ声。それらがかの時代のかの国の日常をリアルに伝えているように思う。
ラストのヒロインの選択は諦観か希望か。「9年後の世界」を知っているとはいえ、欧州の人々と我々にはかなりの温度差があると想像される。エンドロールにここまでの作品のトーンを乱すロックミュージック、だが其のタイトルは"At Last I Am Free"。あの時代を知る人々への強いメッセージなのだろう。


にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村