映画和日乗

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「偶然と想像」監督・濱口竜介 at シネヌーヴォX

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 時の人、濱口監督の目下のところ最新作。

 画面の遠景にマスクをしている人が見切れているので最近の撮影だろう。

いっとき、30年前くらいか、お金もない、アクションは撮影の制約も多い(都内でほとんど撮影許可が下りない)日本映画の窮余の策として猫も杓子もエリック・ロメールを模倣したものだった。かく言う私も意識しないではなかった。

  ロメール的シチュエーションを取り入れて大成功したのが韓国のホン・サンス

 本作「偶然と想像」も映画が始まってすぐに脳内で「ロメール‥‥」と呟いてしまう。

これを書く前に手に取ったキネ旬2021年12月下旬号の濱口監督のインタビューにはあっさりとロメールの編集担当の人から「短編集をあなたもやれば」と背中を押されたと告白している。

 三本の短編オムニバスでそれぞれに関連性はない。タイトルがテーマそのものなのだが、考えてみれば優れた映画というものは全て偶然と想像によって支配されているのかも知れない。王女とたまたま出会う新聞記者、たまたまスカウトされて集まる七人の侍。貨車に載せられて強制収容所に連れ去られる人々と間一髪で逃れる人。偶然とは物語と運命の始まりなのだ。

 王女も悲運のユダヤ人も出て来ない、東京や仙台の市井の男女が織りなすその関係性と距離。クスッと可笑しいし、それはないだろうという強引さもここではかえって映画的。夥しい台詞のやり取りだが、監督と俳優の信頼関係は安定していて、演技者の誰もが落ち着いた佇まいで、気品を感じる。サガワとセガワ。よく思いついたなと感心しきり。

 徹底して話す、ということで人が距離を詰めたり離したりするスリルは見事。

観終わって、面白かったー!と叫びたくなった佳作。ホン・サンスより好いな。お奨め。