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「日本脱出」監督・吉田喜重 at シネマヴェーラ渋谷

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 「追悼特集 来るべき吉田喜重」の一環。

1964年松竹作品。吉田喜重監督の松竹在籍最後の作品。

'64年、既に大島渚監督は松竹を退社しているが、篠田正浩監督は「乾いた花」と「暗殺」を発表している年だ。

本編でもあるように東京オリンピックの年。その数日前に東京郊外のトルコ風呂の売上金を強奪する三人の男と一人の女の道行きを描く。中心になるのは歌手に憧れる鈴木ヤスシ演じる竜夫。鈴木ヤスシというと歌番組の司会者のイメージだったが、'64年当時こんな映画に主演するほどの位置にいたのか。

この竜夫は自らの意志での行動がまるでなく、兄貴に着いて行ってしまったがばっかりに次から次へと不運に見舞われる。この前半部分の脚本がどうにも日活の風俗映画調で時代性を割り引いたとしても台詞が安っぽい。

それに反して成島東一郎の撮影はアンバー調で光と影をくっきり分けたエッジの立った美しさ。そして吉田喜重らしい構図主義が冴えている。

強奪犯は竜夫以外は死んでしまい、龍夫が兄貴と慕った覚醒剤中毒の男の情婦だった風俗嬢ヤスエ(桑野みゆき)との逃避行となる。逃避行に手を貸すヤスエの友人役坂本スミ子が抜群に良い、オモロい。

冒頭にいきなり画家岡本太郎本人のパフォーミングアート、トルコ風呂の店内の廊下にも太郎の絵、そしてラストにまた太郎の絵という前衛。そしてオリンピック聖火リレーの白装束の女性のランナーが群れをなしてヤスエに迫って来るシュールさ、草むらに舞い散る紙幣など刮目すべきショットもあり、本作完成後、ヨーロッパへと旅立った吉田喜重岡田茉莉子夫妻の新しい映画創造の旅への試金石だったのかも知れない。