ティム・フェールバウム監督はこれまでSFばっかりだったようだが、一転リアリズムでかの1972年ミュンヘンオリンピックのテロ事件を描く。
と言ってもテロ事件そのものではなく、それをテレビ中継する事になったアメリカABCテレビのスポーツ局の内情を見せて行く。
ミュンヘンオリンピックといえばスピルバーグの「ミュンヘン」(2005)が決定打。
本作はそれとは対極で終始青みがかった、暗いスタジオを中心に展開。
冒頭、水泳競技の中継。
金メダルは西ドイツ、米国は銀。ディレクター(ジョン・マガロ)は米国選手にキャメラが寄るように指示するとプロデューサー(ベン・チャップリン)は言う。「いやドイツだ」躊躇するD、もう一度Pは「ドイツだ」と。
恣意的な切り取りではなく、あくまで事実を伝えようとするP。彼のこの姿勢がこの後も貫かれる。
本物はこういう人↓
Sports Broadcasting Hall of Fame
彼はまたドイツ語の通訳(レオニー・ベネシュ)に「君の両親は手を汚していない?」と尋く。'72年というと戦後27年。ナチス時代に生きた人々は多い。彼女の両親がナチであった可能性もある。
彼女は「私は私です」と答え、彼は「ごめん」と謝る。時代を象徴するダイアログだろう。
やがて選手村でイスラエル選手団の一人が「黒い九月」によって射殺され、一人が脱出、残り十人が人質になったことが知らされる。
もう一人P(ピーター・サースガード)がいて、この不測の事態に資本の論理(つまりスポンサー、視聴率)を持ち込む。選手村の生中継GOだ、と。
ディレクターは張り切って仕切るが、もし生中継中に人質が処刑されてしまったら、という倫理上の問題が提起され、三者は激論となる。
緊迫した事態は続くが、後半、史実を知っている身からすると「おいおい大丈夫か」となる。史実ではこのテロ事件は人質全員が殺されてしまう。
が、ABCにもたらされるのは「全員解放という噂」。
それはこの映画が「いま作られる意義」を見せつける瞬間でもある。
「噂」のまま報道しろ、ダメだ裏を取れ、いやあくまで「噂」だから良い。
結果「噂」は瞬く間に拡散してしまう。
銀メダルの米国選手ではなくあくまで金メダルの西ドイツ選手、の精神が敗北する。
アメリカは今「真実を伝える」事においてその倫理が根底から揺らぐ事態となっている。
極東の知性と教養が劣化した国民もまた容易く「噂」を信じて右往左往している。
全ての報道関係者は必見だろう。佳作、お勧め。
