安倍照雄のオリジナル脚本。映画化実現に十年かかったという。
疫病と戦争、格差と分断のいま、こういうこころに潤いを与える映画が公開されているのは何はともあれ良いタイミングだと思う。GW中、水曜サービスデーでテアトル梅田昼の上映は満席に近い。
映画冒頭、隕石が地球上の有機体にぶつかるのは一億分の一の確率だ、と少年のナレーションが夜空の画にWる。
その隕石が断酒会帰りの笑美(小林聡美)が運転する車にぶつかる。そこから始まる幾つかの偶然。P.T.アンダーソンの「マグノリア」('99)は幾つかの偶然の重なりがアイロニカルな奇跡を呼ぶ物語だったが、本作はかなり素直に話しが運んで行く。
一億分の一、というのはここでは日本の人口に重ねられているのではないか。
ある事情で東京から離れた町に来て一人暮らす笑美は警備員をしている吾郎(松重豊)と出会う。同じ日本の国の空の下、余所者同士が暮らす町で出会って惹かれ合うのは実は奇跡に近い事なのだと。
笑美の同僚も、町に暮らす人々もみな呑気な人ばかり。特段重大な事件は起こらない。
それでも笑美の癒し難い過去が少年や吾郎によって緩和されていく過程を平山監督の職人技で飽きる事なく観ていられる。
わざとらしくニコニコするでなく、深刻に落ち込むでもない笑美を演じる小林聡美の絶妙。
この小林聡美の円熟を待つ為の十年だったのかも知れない。それもまた神の差配のような奇跡と言えよう。