1910年代の英国の田舎町から始まる物語。冒頭から一頭の賢く、力強い馬ジョーイの成長と馬を育てる馬主の息子(ジェレミー・アーヴィン)が描かれる。随分とかっちりしたクラシックなルックだと思ったら、撮影監督ヤヌス・カミンスキーの語った言葉として「ジョン・フォード調で行こう」というスピルバーグとの阿吽の呼吸で撮られたそうだ。そしてラストは「風と共に去りぬ」('39)なのだと(キネマ旬報3月下旬号より)。
そう、スピルバーグは極めて自覚的にハリウッド古典を生き直そうとしている。ジョン・フォード、「西部戦線異常なし」('30)、スタンリー・キューブリックの「突撃」('57)…そして父親の不在による母子家庭のもの悲しさばかり執拗に見つめて来た彼が、遂に父親との和解を描くにまで至った家族愛というハリウッドの王道。
やがて物語は第一次世界大戦へと突入、撮影監督カミンスキーはすぐさま寒々しいブルー調のルックへと切り替え、英国軍騎馬隊の作戦失敗、ドイツ兵兄弟の悲劇、フランス人少女の悲劇を容赦なく描く。英語の分らない人でも登場人物からしばしば発せられるbookあるいはpromiseという単語は聞き取れるであろう。この映画はいくつかの「約束」が結ばれる物語でありつつしかしそれらの約束はことごとく破られる。地主と小作人との約束、ドイツ兵兄弟の母親との約束、少女とその祖父の約束。そして不運と悲劇を反転させる、苛烈を極める戦場での駿馬ジョーイがもたらす「奇跡」。約束と奇跡。そうか「未知との遭遇」('77)で旧約聖書をひいたスピルバーグはここで再び聖書へと立ち返るのか。有刺鉄線にがんじがらめにされるジョーイは荊の冠を被せられたキリストのメタファーか。英独両軍共に戦うことを止める瞬間はそういう意味を含むと読んだ。そして「約束」はひとつだけ果たされ、青年と馬は家族の元へと帰る。戦争を語らなかった父親と、戦争を知ってしまった息子の和解。
という訳でハリウッド復古調と聖書的「約束と奇跡」の物語を見せつける堂々大河ドラマ。佳作、お勧め。