映画『アイミタガイ』オフィシャルサイト 2024年11/1公開
元々は故佐々部清監督で企画されていたらしく、脚本にその名前が残っている。
草野翔吾監督は「にがくてあまい」(2016)を観ていたがさほど印象に残っていなかった。ただ、本作を観て佐々部監督には大変失礼だが、草野監督のこの優しいタッチで正解だったと思う。いや、佐々部さんも草葉の陰できっと喜ばれておられることであろう。
仲良しの同級生二人の「今」と「過去」から広がる偶然が織りなすドラマ。ここではよく言われる偶然即ち必然が描かれる。「そんな偶然ないやろ」という日本映画の脚本は多々あれど、本作は一つ一つの結びつきがこれは運命であり必然なんだという説得力を持つ。勿論、フィクションドラマなのだが、もしかしたらこれって故人に引き寄せられた魔法のような偶然、という観客への思い込ませ方が秀逸である。
田口トモロヲ演じる、事故で亡くなった娘を持つ父親の台詞「善人ばっかり登場する小説なんて嘘っぱちだと思っていたけれど、今はそれを望んでいる」に尽きる。
こういう、中産階級の細やかな幸せを描く日本映画を久しく観ていなかった気がする。貧乏臭く、下品で自分が不幸せなのは日本の社会が悪いんだと叫ぶ被害者意識剥き出しの映画なんかもう観たくもない。
「アイミタガイ」の慎ましさこそが寧ろ私にはリアルな社会性を感じる。
桑名市のロケーションが素晴らしい。草笛光子演じるピアニストの家、よく見つけたな。そしてよく貸してもらえたな。
夜のコンビナートは四日市市だろうな。吉田喜重「甘い夜の果て」('61)が脳裏をよぎった。
冒頭の、やたらと現況を台詞で説明してしまう登場人物に一抹の不安を覚えたが、そこからロバート・アルトマンのような構成力とイーストウッド「ヒア アフター」(2010)のような怒涛の「引き寄せ」のクライマックスで見せ切る。
娘の遺した思い出に心揺さぶられる母(西田尚美)の慎ましい涙も好感。
佳作、お勧め。