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森崎東監督一周忌特集の一本。
1989年松竹。ビデオ化はされているがDVD化はされていない模様。
未見だった。宮本輝原作。
尤も、観終わると彼が屹立した主演俳優ではない事が分かる。そういうドラマではなく、大阪、鶴橋辺りの夢見通りという架空の街の人々のグラフィティである。
尚、書類の住所欄に「鶴橋6丁目」と書かれているのが映るが、鶴橋は5丁目までである。
大阪ロケは実景を含めても全体の3割くらいだろう、後は松竹大船に建造された夢見通り商店街のセットの中でドラマは展開する。
このセットが立派で目に染みる。最早今ではNHKでしか無理だろう。撮影所の栄華の残り香、先に見た「キネマの神様」よりよっぽどこちらのセットの方が大船イズムを感じる。
新大阪駅の救護室までセットで作られている。窓外にぎこちない動きで出発する新幹線、ピアノ線で引っ張っているのか手で押しているのか動きのチープさがかえって映画という仮構の世界を充実させている。
元気一杯の笑福亭仁鶴に今この映画を観られる幸運を感じ、その仁鶴が桂小文枝と各々の娘と息子の駆け落ちでつば迫り合いを演じる楽しさ。
登場と同時に場を攫う原田芳雄。
すまけい、山田スミ子、夢路いとし、汐路章、若井小づえ、そして乙羽信子。
皆この世を去り、このフィルムの中に息づいている。小倉が波の音のテープを買うために入るレコード屋には大江千里の「OLYMPIC」のCDがずらり。そんな時代だった。
ラストのうさぎはフェリーニの「アマルコルド」('73)の孔雀だろう。そうやって観るとこの映画全体が「アマルコルド」の街の人々と重なる。佳いものを観させて貰った。