映画和日乗

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「父と暮らせば」監督・黒木和雄 at テアトル梅田

昨年、最も優れた映画だった「美しい夏キリシマ」の黒木監督の新作、井上ひさしの戯曲の映画化。
1948年広島。原爆投下から3年、父を喪い、元は立派だったと思しき廃屋でひとり暮らす美津江(宮沢りえ)。
しかし、まるで当たり前のようにしばしば現れて娘と話す父(原田芳雄)の亡霊。図書館に勤める美津江は、
原爆の資料を集めているという青年(浅野忠信)から思いを寄せられるが、人を好きになってはならないと拒絶する。
父はそんな娘がもどかしく、あれやこれやと策を練り、娘に話しかける…というお話し。
確信犯的に戯曲に忠実な舞台劇さながらのワン・セットでの二人芝居。
このセットデザインが素晴らしい(美術・木村威夫)。台詞も演劇調、と思いきやキネマ旬報8月上旬号の黒木監督
の発言によると、これは井上ひさし氏が2年間に亘って1万人の被爆者の方々から見聞きした実録の言葉だとのこと。
「生きていては申し訳ない、だから人を好きになってはいけない」と言う娘に、亡霊の父は言う「生かされているんだ、
お前は」。「人間の悲しかったこと、楽しかったことを伝えるがお前の仕事じゃ」。
宮沢りえが素晴らしい。ベストアクトだ。
静謐な映画だが、これまで隠喩としての原爆を描いて来た黒木監督が、ここではむき出しに反戦反核をぶつけて来る。
傑作、必見。劇場は高年齢層で満員。
しかし若い人が観なければ。大学生はまだ夏休みだろ? 

父と暮せば 通常版 [DVD]

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