「松竹110周年映画祭」として上映。1939年、松竹京都作品。歌舞伎界のバックステージものだが、根幹は男女の悲恋だ。ほとんどがフルショット、溝口特有の大振りな移動クレーンはここではまだ登場せず、フィックスのカットも多い。時に主人公がフレームからはずれているにも関わらず、音声のみで進行させる野心的な試みにも驚く。歌舞伎スターの話なのに、顔を正面から捉えるカットがない。いや、どこかで必ずやるはずだ、と見ていたらラスト近く、主人公が病床の妻のもとに駆けつけるシーンでここぞ、と見せてくれる。話が大阪に移ってから俄然生き生きと面白く、笑いあり涙あり、ラストの道頓堀船乗り込みの迫力と哀感には唸る。劇伴の音楽は冒頭と最後のみ、お囃子や太鼓、節のついた戯れ歌など風景としての音楽を多用して登場人物が於かれた状況を際立たせる演出には脱帽。
あらためてひれ伏す、映画監督・溝口健二に。明後日9/1午後1時よりNHK-BS2でオンエアあり、傑作、お勧め。
溝口健二―情炎の果ての女たちよ、幻夢へのリアリズム (映画読本)
- 発売日: 1997/09/01
- メディア: 単行本