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「ケイコ 目を澄ませて」監督・三宅唱 at シネリーブル神戸

映画『ケイコ 目を澄ませて』公式サイト

 ショーン・ペンの新作に続いて、こちらも16㎜での撮影による映画。

ペンが記憶装置としてのフィルムのざらつきを選んだのに対して、本作は画角もスタンダード、確信的に映画そのものの原点回帰を目指している。まして聾唖のボクサー、手話での会話を黒バックに白抜きの字幕でカットに割り込ませるというサイレント映画の手法まで採用している。更にさらに、キャメラは殆どフィックス、小津か加藤泰かという動きの無さ。どこで動くのだろうと息を詰めて見守ったが、あっと声を出しそうになる程生理的に的確な動きを見せる。東京の下町のロケーションもまた成瀬巳喜男の匂いがする。路地の低い階段の上り下りの反復とズレ。

 徹底した日本映画の古典回帰が心地良く、この監督特有の、普通なら切ってしまうようなカットの前後の余白の温もりが活きている。

 登場人物はみんなケイコ(岸井ゆきの、名演)に対して優しく、それもまた松竹大船辺りの古い下町人情モノのテイストさえある。一方、2020年12月から始まる物語であり、聾唖者がマスクをしている相手の口元が見えない事でコミュニケーションが取れないという描写にハッとなる。映画的純度はスピリタス並みに高い。

 物語を語ると三分で終わるような話しなのに、音と光と影のアンサンブルというシンプルな映画的要素だけで魅せ切る。

 ボクサーのグローブと、コーチがそのパンチを受ける音のリズム。既視感ならぬ既聴感のあるリズム、何だろうと脳内で反芻していたら、あるシーンで思い出した。

 タップダンスだ。タップのリズムだ。いや違ってたらごめんなさい三宅監督。

 とまれ年の最後の劇場鑑賞締め括りに佳い作品に出会えた。

傑作、必見。全ての賞を獲っても異論はない。


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