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「シャドウプレイ【完全版】」監督ロウ・イエ at シネリーブル梅田

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 2018年の作品、ロウ・イエ監督作としては横光利一が原作に名を連ねる次作「サタデー・フィクション」が既に完成しているが、前作「ブラインド・マッサージ」からは4年の間隔がある。

 その間隔が「当局との戦い」の時間であっただろうことは想像に難くない。

ドローン撮影による見たことのない圧倒的な風景、破壊された巨大団地と瓦礫の山を無数の群衆が駆け上り、雄叫びをあげる。当局による再開発、強制立ち退きに端を発する暴動。ど迫力で釘付けになるが、暴動の裏で起きた殺人事件が物語の発端。

 事件を追う刑事(ジン・ボーラン)は事件の被害者で小役人(チャン・ソンジェ)の妻(ソン・ジア)に接近するが罠に嵌められ世間から追われる身となる。

 舞台は香港に移り、成金不動産王(チン・ハオ)と小役人が結託した土地開発に絡む汚職が露呈して行く。

 フィックスのカットなど無く縦横無尽にキャメラは動き、目まぐるしさが観る者の精神を不安へと導くのはこの監督の特徴的な演出。

 全体的なストーリーはミステリー仕立てだが観終わると俗っぽいものであることが分かる。勿論本筋としてのテーマはそこには無い。時系列を入れ換え、時に同じ空間の中でさえ時代を越えるアンゲロプロスのようなショットも交えてひたすらに情欲と金銭欲の沸騰を描く。

 そう、日本の地上げの時代、バブル経済とイメージが重なる。

マルサの女2」が1988年の映画だから、中国のバブルは20年以上遅れで、しかも国がデカイだけに桁違いのスケールであった事が本作の描写で分かる。

 そして情欲と金銭を天秤にかけりゃ、金銭欲が上回るところが中国。愛は暴力では手に入らないが金は入る。彼らを破滅へと導いたのは‥‥ネタバレを慎むとして、ひとつ言えるのは切っても切れない親子の縁に帰結したということ。ロウ監督はゲスい犯罪を描くことでこの30年の中国人の人間性の変わりようを炙り出したのであった。