1992年イラン。
1990年のイラン大地震の直後、かつてキアロスタミ監督がつくった「友だちのうちはどこ?」('87)に出演した少年の安否を訪ねる監督(本人ではなく、ファルハッド・ケラドマンドが演じている)とその息子の道行きを描く。
震災で破壊された風景は現実であり、そこをクルマで通り過ぎる親子の姿はドキュメンタリーでありながらキアロスタミは撮る側で、自身の役を別の役者が演じているというフィクションでもある。映画としてのこの2つのジャンルをひょいと飛び越え、ジャンル分けを無化する瞬間がある。監督の息子がある老人に水を所望する。その水を汲むコップが無いと言う老人に、キアロスタミ本人と思われる「持って行ってやって」という声が聞こえ、画面に突然本編スタッフの女性が現れて盥のような器を老人に手渡すのだ。この後フィクションとノンフィクションがよじれて1本の線となり、この過酷な被災状況をダイレクトに伝えて来る一方、道すがら出会う碧眼の兄妹のどこか詩的な憂いの表情や、兄弟を亡くした少女の沈黙の時間という、映画というものが純化して行く瞬間を目撃することになる。
何もない平原を延々と捉えるキャメラは、この映画の持つ豊かな映画的余白と人の優しさそのもののようで、観る者の想像をかきたて希望を感じさせる。傑作。
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終演後「Image.Fukushima」IN 金沢のトークセッションに参加。