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「ガーンジー島の読書会の秘密」監督マイク・ニューウェル at パルシネマしんこうえん

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 ガーンジー島が英国領なのに何故戦時中はナチスドイツに占領されていたのだろう、と検索してみると地図を見て合点がいった。

An Island of Taxation Relaxation - Parc Forêt at Montrêux

   かのノルマンディー海岸寄り、つまり英国ではなくフランスに近い。

先日「百年戦争」(中公新書)を読んだばかりなので、この近辺では度々英仏両国間で占領と奪還が繰り返されていたことは知っていた。

が、更にはこの島が英国連邦には含まれず、「レ・ミゼラブル」に縁があると言うことを知って驚き↓

sera9.com成る程、ナチスが来ても英国軍は戦わず、そして文学に縁があるという訳だ。

ナチス・ドイツによるチャンネル諸島占領 - Wikipedia

 前置きが長くなったが、これらのことを踏まえるとようやく時代、政治、文化的背景が飲み込めると言うもの。

 さてそのガーンジー島の夜道がオープニング。豚料理が旨かった、と楽しげに何度も呟く老人と数人の集団がナチスドイツ軍の一団に取り囲まれる。外出禁止のはずだと言うドイツ軍将兵にエリザベス(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)が咄嗟に「読書会だった」と言い訳をする。読書会の名はこれもまた咄嗟に「ポテトピールパイの会」と命名され、ドイツ軍は「その名前で登録する」と言うもんだから彼らはにわか読書会を開かざるを得なくなった。町のあちこちから集められた古本、その中に名前と住所が書き込まれた本があり、読書会のメンバーだった養豚所を営むダウゼー(ミキール・ハースマン)は戦後その住所宛に礼の手紙を書く。手紙を受け取った女性は新進作家としてロンドンで華々しく売り出し中のジュリエット(リリー・ジェームズ)。

 にわか読書会によって文学の魅力に目覚めていった島の人々のエピソードを知ったジュリエットはこれはネタになると踏んで呼ばれてもいないのにガーンジー島に渡ることにする。その出航の日、アメリカ軍人の彼氏にプロポーズされて喜色満面、意気揚々と島に赴くが、読書会のメンバーの一人に激しく叱責される‥‥。

 監督のマイク・ニューウェル今年78歳か、先日亡くなったアラン・パーカーとは同世代、手堅い娯楽派だと思う。本作も原作があるらしいが文学趣味は極力抑えている。

 読書会というものを一体どう撮るのだろう、と観る前は興味津々だったが成る程、「本の朗読」は殆ど無い。読書会が始まるところだけですぐに時間経過、読書会後のお茶会に繋いでいる。こういうところ、流石に巧い。

 ストーリーは文学的素養の提示の代わりに大メロドラマへと傾倒して行く。邦題「読書会の秘密」が徐々に明かされて行く中、子供に優しいダウゼーが実は独身、という「秘密」を知った時のジュリエットのときめきの眼差し、そして見つめられた先のダウゼーのキラッキラな横顔。巧いね、ここも。

 島の人々も徐々にジュリエットに心を許し、戦争を巡る悲劇が明かされる。本土に帰国したジュリエットは婚約を破棄、作家業に邁進、一心不乱に島での出来事を書き綴る。何故かメイクバッチリなのは大いに気になったが今ドキ風メロドラマだからなのか。同じく作家の人生を描いた「ジュリア」('78)をふと思い出す。あっちは風格がありましたな。

 


 

ミステリー部分もあるので以降の内容は伏せるが、ともあれ品の良い英国調、飽きさせないテンポの良さ、歴史と風土を知る喜びに満ちた快作。お勧め。

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