2024年のカンヌ、パルムドールが「ANORA アノーラ」で次点が本作。
インド、ムンバイのある病院に勤める看護師の先輩プラバ(カニ・クスルティ)と後輩女性アヌ(ディヴィヤ・プラバ)と、その病院で調理師をしているパルヴァティ(チャヤ・カダム)。この三人の女性の日常がドキュメンタリータッチで描かれる。
大都会ムンバイ、夜の喧騒。様々な言葉が象徴的に音声として映像に被る。
プラバは見た事もない男と「見合い結婚」、更にはその「夫」はドイツへ出稼ぎ。
立ち退きで住むところを失うパルヴァティ。
手持ちキャメラ、自然光によるフィクションと偶発的な出来事の融合。
その視線は人物の切り返しを避け、どちらか一人のみを見つめる。
何故か羽仁進「初恋・地獄篇」('68)のタッチを思い出す。
現代インド社会を覆う「戒律」「社会的慣習」の理不尽は女性の生活権の自由を奪い、自立を抑圧している様子が描かれる。
住むところを追われたパルヴァティの故郷について行くプラバとアヌ。
海沿いの田舎町、パルバティが音楽に合わせてふいに踊り出すところでハッとなった。
歌と踊りの娯楽マサラムービーは、インドの守旧的な価値観の上に成立しているのだと。統制されたマサラムービーのダンスを見慣れてしまっている事に慄然とし、パルバティの何気ないダンスに感動してしまう。
この田舎町に後から追ってきたアヌの恋人との性描写はインド映画では御法度のはずだ。マサラムービーの保守性への痛烈な一矢にも見える。
そしてリアリズムから一転、手持ち撮影からフィックスの撮影となり、プラバの見る幻影が描かれる。愛の精霊は田舎の海辺に潜んでいたのか。詩的で崇高な映画的マジックに息を呑む。
ピアノによる素朴で幻想的な音楽がセンス抜群。カンヌ評価も宜なるかな。
佳作、お勧め。
