映画的日乗

映画、食、人。西に東に。

「いとみち」監督・横浜聡子 at シアタス心斎橋

twitter.com 青森県、どこか途方もなく遠い田舎町にあるという感じの家から、出掛けにかき餅のようなものを貰って家を出る一人の女性。かき餅を手渡す老婆が「け、け、け」と言う言葉の意味はその後何度となく耳にしている内に意味が分かる。「食え」の津軽弁らしい。

 少女、いと(駒井蓮)は吠える犬に吠え返し、かき餅をかじって家の近所をうろうろする。それだけで彼女の取り巻く環境が読み取れる導入部が素晴らしく、凡百、いや凡億千万の女子高校生がキラキラしまっせものを凌駕する。

  原作は越谷オサムの同名小説。

 

 ヒロインいとのフルネームが相馬いと、だと分かる場面があって原作があるとは知らず観たのでこれは横浜監督が東北出身の相米慎二監督へのオマージュで「相米、と」に読めるように命名したのではと勝手に胸を熱くした。が、本作はカットを割らずに人物の会話を撮り続けるシーンが多く、あながち無関係ではないのかも知れない。

 いとは口下手で人見知り、演じる駒井蓮の背が高いこともあってそれすらコンプレックスに見える。時給が良いからと青森市内のメイドカフェにアルバイトで入り、そこで漫画家志望の同僚、智美(横田真悠)にボソボソと自分の家族のことを語る。若くして死んだ母親のことを父や祖母は何も話してくれない、と。これに返す朋美の台詞「あんた自分勝手だね」に唸る。この映画には「他者のことを知る、思う、考える」というテーゼが根幹にある事に気づく。

 母、父、祖母、友達、同僚。他者を知ろうとする事に、封印していた三味線を弾くことで挑んで行くいと。映画を観ている人が、彼女の顔つきが変わって行く瞬間を目撃出来る事は幸福であるとさえ思う。

 役者はみんな素晴らしい。お父さん(豊川悦司)に「チョモランマから帰って来たんですか?」「‥‥はい」で爆笑。

 日本映画ひっさしぶりに大好きになれる傑作。お勧め。