映画和日乗

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「ユダヤ人の私」at 第七藝術劇場

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www.iwanami-hall.com  四人の監督による共同演出ドキュメンタリー。

Ein jüdisches Leben

 1913年生まれのマルコ・ファインゴルト氏が語る生涯。

 106歳まで生き2019年に亡くなる。

 恐らく制作者は彼の生きている内に記録しておくべき物語として膨大に撮影したのであろう。本編はその一部でしかないと感じさせるほどそれは過酷な人生である。

 イタリアで過ごした青春時代の華やかさから一転、ヒトラーの登場によって地獄へ叩き落とされる。四箇所の強制収容所盥回しにされたのは生きる為の機転が働いた部分があるようだが、それ以上に数奇としか言いようがない。きょうだいは全員殺されている。

 彼がしつこく告発するのは、ナチスそのもの以上にいとも容易くナチスユダヤ人排斥に同調したオーストリアの官憲である。彼らは戦後「戦敗国」の国民ではなかった為に無反省かつ無自覚、そして何食わぬ顔でオーストリアの行政に復職しているのだと言う。

 これは何もオーストリアに限った事ではなく、ハンガリーリトアニアも元から反ユダヤであったが為にナチスに容易く加担したのである。

 ファインゴルト氏が訥々と語るインタビューの合間に挟まれる1930年代からナチスドイツ崩壊前後に至る記録フィルムはさほど真新しい発見があるものではない。YouTubeで見られる処刑、虐殺などの悍ましいナチスの行状に比べればおとなしいものだ。

 それよりも目を引くのはファインゴルト氏に宛てられた、戦時中と何ら変わらない反ユダヤ主義者による誹謗中傷のメッセージだ。

 この一人のユダヤ人の人生を記録することは重要だが、それと同等に、暴力に等しい誹謗中傷を臆面も無く送りつける彼らに焦点を当てて反ユダヤ主義の本質をこそ見たい。