フランスの排外主義者、宗教右派は日本のそれとは比較にならないほど根深く、暴力的ですらある。移民排斥も根底にあるのは反ムスリム、反ユダヤでその宗教闘争の歴史はゆうに700年前に遡る。アメリカという国などまだ影も形もない時代からである。
本作は戦後のフランスで排外主義と女性差別に敢然と立ち向かったシモーヌ・ヴェイユなる女性の生涯を描く。
時系列を目まぐるしく入れ替える構成はむしろ的確で観る者を飽きさせない140分。キャメラも動きに動く。縦横無尽に動かす為に恐らくロケセットではなくスタジオにセットを組んでいるのだろう。
シモーヌ自身の半生を語り、記録して行くという進行だが彼女の人権救済第一主義の根底にあるのはナチスによって家族もろとも強制収容所送りになった経験に起因する。
戦後数年しか経っていないのにビシー政権(ナチス傀儡政権)時代のことを「忘れよう」とする周囲に抗うシモーヌは弁護士資格を取りあらゆる人権侵害に取り組む。ユダヤ人のシモーヌ一家を逮捕するのはSSではなくビシー政権下の官憲であるところもしっかり描かれている。
そしてそのアウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所時代の日々が克明且つ執拗に描かれる。
「シンドラーのリスト」('93)は言うに及ばず、数多くの映画で描かれていたその場所を、今作では不潔、不衛生、飢餓という視点に重きを置いて、人間の尊厳が失われて行く様を見せつける。そんな中シモーヌを助けるカポは同性愛を匂わせていて、その点で新しい。
若き日のシモーヌを演じるレベッカ・マルデール、政治家になってからのシモーヌをエルザ・ジルベルスタインが演じているが、どちらも入魂の名演。特にジルベルスタインが排外主義者達の暴言やヤジに猛然と反論する論調は見事。
怯まない、ブレない。
折しも現在パリにて猛勉強中と漏れ承るニッポンの女性政治家の皆様、帰国されましたら是非とも本作をご覧下さいませ。