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「パリタクシー」監督クリスチャン・カリオン at kino cinema神戸国際

映画『パリタクシー』公式サイト|2023年4月7日(金)公開

 原題は"UNE BELLE COURSE/DRIVING MADELEINE"、直訳すると「美しいコース(仏語)ドライビング・マドレーヌ(英語)」。英語の方は「ドライビング・Miss・デイジー」('90)を意識しているかな。

 主演の一人、マドレーヌを演じるリーヌ・ルノーは御年95歳。役柄とほぼ同じ歳を演じていることになる。素晴らしい。

 パリのタクシー運転手シャルル(ダニー・ブーン)は金に困っている様子。長距離のおいしい仕事が入って行ったところが郊外の邸宅。呼び鈴を押しても誰も出ない。女性の声で振り返ると邸宅の反対側に立っていたのがマドレーヌ。この位置関係が実は伏線で、ラストになって効いてくる。

 マドレーヌは車中で自らの過去を話し出す、ナチスのパリ占領、父親は恐らくはレジスタンス、ナチスに処刑されていた。戦争が終わり、進駐してきた米兵との恋。

 そんな具合に語りが進む中挟まれる彼女の若き日の映像。どうにもこれが工夫が感じられないものの、マドレーヌの最初の夫からのDVを通じて1950年代のフランス社会の男性優位主義とカトリック社会の無謬が描かれる。

 ちょっと脚本の流れが単調で、何か一つ彼女がシャルルに語らない過去や人間関係があっても良かったか。そしてそれが別の形で顕在化すれば面白かったのではと思う。

シャルルが金に困っている事が度々強調されるので、ラストの「遺言」はそんなに意外な感じはしない。

 かつて淀川長治氏が「フランス映画は恋、恋、恋なんですね」と語っていたのを思い出す。黒澤明「生きる」の英国版「Living」に続いてこちらはフランス版といったところか。やっぱり人生は恋のフランス。