原作ジョルジュ・シムノン。映画化作品をみてみたら同じルコント監督の「仕立て屋の恋」('89)の原作もそうだった。なるほどそうか。
しばらくスルーしていたルコント作品、最後に観たのが「親密すぎるうちあけ話」(2006)。
↑ここにも書いているがルコントの描く男性像「惚れた相手には手を出さず、じっと眺めている」のは本作でも通底している。いやはや一貫した嗜好なのだな。ただ、それが今回はミステリーの「犯人側」であるところが今までと違っていて、やり口は陰惨である。
そういえば「イヴォンヌの香り」('94)でゲイの男が自分の連れて来た女と別の男が交わるのを眺めて陶然とするシーンがあったと記憶している。
ルックが終始薄暗い。最初自分の目が異常なのかと疑った程に薄暗く、天気は常に曇天である。1950年代のパリが舞台とのことだが、あの時代はこれくらい暗かったのだ、とのリアリズムというより、ルコントの精神状態なのではないかとあらぬ想像すらしてしまう。何せ「犯人側」なのだから。
ミステリーとして出だしは興味深いのだが、やがてネタは割れていく。どんでん返しがある訳でもない。メグレ警視(ジュラール・ドパルデュー、太り過ぎ)は淡々と捜査を進める。やはりミステリーの謎解きとしての面白さを演出しているより、子供のいない老夫婦たるメグレの心象に寄っている気がしてならない。若い女性に優しい「ある理由」が妻から明かされるあたりはホロリとさせられる。
「ルシアンの青春」('73)のオロール・クレマンがご健在で何より。
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書いていて気がついたが「喪黒福造」の喪黒はメグレから来ているのか。ドパルデューのシルエットは全くもって喪黒福造のそれである。