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「LOVE LIFE」監督・深田晃司 at シネ・ヌーヴォX

映画「LOVE LIFE」公式サイト

 日本のどこにでもありそうな団地の風景。

棟を囲むように位置する運動場なのか憩いのスペースなのか、空き地で文字の書いたカードを持って「おめでとう」という言葉を掲げる練習をしている人々。団地の中、その光景が見下ろせるある一室に飾り付けられたモール。子供の誕生日祝いか何かと思って観ていたが、どうやら違うようだ。子供はオセロの大会で優勝したらしく、そのお祝いが祖母と思しき人物から手渡される。では外の空き地にいる人達は何なのだろう?

 そこから物凄い量の情報が画面から発信される。子と母・妙子(木村文乃)は父・二郎(永山絢斗)の前で一瞬手話で話す。何となく子は妙子の連れ子だと伝わって来る。文字カードの人々から一人の女性が離脱、その女山﨑(山崎紘菜、好演)は二郎とかつて関係があったと。この点だけ第三者の台詞で説明されるがそれ以外は全てショットの積み重ねで示される。

 「おめでとう」は二郎の父誠(田口トモロヲ)へ向けられた誕生日祝いのサプライズだった。休日に会社の上司の為にそんなことをやらなければならないニッポン社会。

滑稽ですらあるそんな個の埋没、連れ子のいる妙子を「中古」呼ばわりする誠、(実子の)孫を早く、と二郎の母。在住韓国人への生活保護申請、ホームレス、聾唖、狭く無機質な団地。現代ニッポンが怒涛の如く押し寄せ、中盤で既にヘトヘトになりかけた。

 子供が溺死して父親が覚醒剤に走ったのは柳町光男監督「さらば愛しき大地」('82)だった。本作の夫婦は子の事故死を受けてそれぞれの元彼、元カノに傾倒して行く。登場人物の誰もが現代ニッポンで攻撃目標とされる「身勝手」あるいは「不謹慎」な人々だ。

深田晃司監督の視線は彼らに対して温かい視線を送るわけでも批判がましく捉える訳でもない。単純にどれかのキャラクターに共感を求める観客は離脱するしかないだろう。

だがそここそが本作の最大の魅力なのだ。聾唖で在日韓国人を旧来的な型にはまった「薄情で差別的な日本社会の被害者」として描かない痛快などんでん返し。妙子、もう踊るしかないヤケクソはポン・ジュノの「母なる証明」(2009)を想起した。

ラストに静かに顕れる「LOVE LIFE」のタイトルのシニカルさ。愛は熱量ではないと。それでも生きよう。脳の体力を要する映画だ。

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