映画化作品も多い水上勉のエッセイが原案とのこと。あらためて水上勉を検索してみると
夥しい数の著作が並ぶ。このwikiが正しければ、心筋梗塞で死生を彷徨った時期と、長野県の山村に移り住んだ時期が本作とは違っている。
それはさておき、素晴らしいロケーション、ロケハンの勝利だ。今どき四季に亘ってじっくりキャメラを据える余裕のある映画は珍しい。登場人物が少なく、勉(沢田研二)ひとり佇む自然の時空間は煌びやかなセットよりも贅沢で美しい。
勉の話す、標準語と関西弁が入り混じった独特の言葉遣いも味わいがあり、どうしても「通る声」の沢田研二が淡々とそれを抑えているのも素敵だ。
ふいに現れる勉の義母が奈良岡朋子で惚れ惚れする名演。役者は素人の村人、わんこのさんしょを含めて皆素晴らしい。キャスティングも完璧だと思う。さんしょの演技はどうやって?
エッセイをそのままナレーションとして朗読しているのは良いとして、行動を先に言葉で説明してしまっている部分はそんなに分かり易くなくても、と思った。
シンプルなツーショットを多用、借景を望むようにして勉と編集者(松たか子)が佇む姿が良い。が、死を意識し始める勉を正面からじっと見つめるカットにはそこに幽鬼が立ち現れるかのようで凄みがある。
静かににじり寄るようなキャメラの動きも観ていて飽きない。
ネタバレは慎むが、「太陽を盗んだ男」('79)世代にはニヤリとさせられる瞬間がラスト近くにおとずれる。またエンドロールの楽曲に大村憲司の名前を見つけ、しんみり。
シンプルにして贅沢、素方にして豊穣。佳作、お勧め。