映画的日乗

映画、食、人。西に東に。

「サン・ジャックへの道」監督コリーヌ・セロー at シネリーブル神戸。

中年にさしかかった三人兄妹。長男は事業家として成功し、多忙。が、妻はアル中だ。長女は高校の国語教師。温かい家庭に恵まれているが強面なオバさん。末の弟は16歳で家出してからボヘミアンな人生、一文無し。別れた妻との間に女の子がひとり、そしてアル中気味だ。この三人にある日突然母親の遺産相続の話しが舞い込む。相続条件は三人揃ってサンティアゴ巡礼を成し遂げること。フランス、ル・ピュイという小さな町から徒歩だけで1,500キロ、スペインのサンティアゴまでの苦行だ。
ガイドの男を含めて9人が巡礼の旅に出る。中にはイスラム教徒でサンティアゴではなくメッカに行けると信じているちょっと足りないアラブ系少年もいる。過酷な道のり、当初は疲労と不慣れから諍いが絶えなかったが、やがて現代人が知らず知らず背負っていた「余計なこと」がそぎ落とされて行く…というお話し。
「宗教なんてどれも似たようなもんさ」という台詞が出て来る。サンティアゴ巡礼についてはウェブサイトをご覧頂くとして、西国八十八ヶ所参りやら各種聖地巡礼というのは、どんなに時はうつろいでもその意義は変わらないのだということがよく解る。セロー監督の視線は常に温かい。当初は疲労と我がままで「風景なんか目に入っていない」と指摘される人々も、やがて連帯感と充足感から風景が美しく見えて来る。兄妹達は絆を取り戻し、若者達の恋は回復し、字の読めなかったアラブの少年は識字を達成する。サンティアゴへの到達と、彼らの人生のある種の到達を重ね合わせるのを安易と言うなかれ、だからこそ人は歩くのだというつくり手のポジティブさは爽やかだ。ラスト、強面オバさんの見せる優しさにグッと来てしまった。巧い。
単純なことだが、複数の人々が横なり縦なり並んで歩くフルサイズの画って映画的。新緑の季節の今にぴったりの佳作、お勧め。