映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「トウキョウソナタ」監督・黒沢清 at 恵比寿ガーデンシネマ

始まって3秒でああ映画だ、と興奮と安堵が入り交じる。確実に美味しい料理を出してくれる店の暖簾をくぐる安心感に近い。ジャンルとしてのサスペンスではないのに、実にサスペンスフルなシーンが続く。この家族の住む、真横を電車が走る家。隣が空き地になっていることからすると立ち退き寸前のところをロケセットとして借り受けたと想像される。この異様な立地条件に「本当は」どんな家族が住んでいたのだろうというところまで思いを馳せることが出来る、それほど見事なロケセットだ。
さて、小泉今日子はここでは母を演じつつ母ではない「女」だ。米軍に入隊する長男への眼差しに母性の薄さを感じる、それは果たしてどうか。この「女」は押し入った強盗と短いランナウェイへと旅立つが、この一連が急に舞台調になる「乱調」も、どうか。それでもフルショットで押し通すキャメラは、映画演出としてひとつの高みへの到達点だろう、感嘆した。傑作、だが金メダルまであと少し。

トウキョウソナタ [DVD]

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