映画和日乗

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「天国はまだ遠く」監督・長澤雅彦 at 109シネマズHAT神戸

瀬尾まいこのこの原作は、私も映像化権獲得にエントリーしていたが、コンペの結果長澤監督が映画化。
リリカルな分、ヒロイン千鶴(加藤ローサ)の自殺しようとする動機が弱い原作を、映画化に当たってどうフォローするのかが注目だったが、強迫観念的なキャラクター形成をさりげなく吐露することで成功している。
意識的にゆっくりとしたテンポのストーリー進行を飽きさせないように、原作を巧くアレンジして増やしたキャラクターやエピソードを盛り込むことで、心地よく見ていられる。キリスト教を持ち出すという選択も勇気が要ったであろうが、自殺というキーワードへの対極のメタファーとして有効だ。現状ではまだルックが安定しているとは言い難いHDキャメラのクオリティも、本作では実に美しく丹後の自然を捉えている。
そしてなにより役者がみんな素晴らしい。原作より繊細なキャラクターを演じた徳井義実、凄い。あるいは「大助花子」の宮川大助の押さえた渋さに瞠目。関西学院大OGの絵沢萠子南方英二といった関西ネイティブのアクを絶妙に抜いた演出力には感心した。
同世代の長澤監督に拍手、悔しいがお勧め。