映画和日乗

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「罪の声」監督・土井裕泰 at 109シネマズHAT神戸

twitter.com 原作は未読。キネマ旬報11月上旬号の特集によると脚色に当たって幾分設定が変わっているようだ。かのグリコ・森永脅迫事件をモチーフとした書物や映像は沢山あって、幾つかは読んだり観たりしていた。その中の一つ高村薫著「レディ・ジョーカー」はドラマ化、映画化もされているが、本作はそれとは全く別の視点で描いている。

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  私はあの事件の時、リアルタイムで事件の経過をマスコミを通じて見ていたし、後に全く別の用件で江崎グリコの社長さんとお会いした事もあるのでそれこそ「経緯」はある程度記憶している。中でも身代金を運ぶ道順を指示する子供の声の録音は、それを聴いた瞬間のおぞましい感覚を未だに覚えている。

 その子供の声を巡るサスペンス。自宅の押し入れから出てきたカセットテープを聴いた仕立て屋の二代目主人、曽根俊也(星野源)はそれが自分の声である事を悟る。一方35年前の企業脅迫事件の洗い直しを命じられた文化部記者、阿久津(小栗旬)は犯人グループが集っていた小料理屋に行き当たる。この二人がやがて出会い、録音の声の主である三人の子供のうち俊也を除く二人を追う旅に出る。

 二人が行く先々で出会う証言者達のキャスティングがドンピシャリの素晴らしさ。正司歌江佐藤蛾次郎、この流れならきっと出てくるだろうと思ったら出てきた佐川満男、中華料理屋店主は横山あきおかと思ったら沼田爆だった(横山あきおは故人だった)。柔道場の元警官役が桜木健一という遊び心も楽しい。

 中盤、圧倒的な演技で針が振り切れるほど画面空間のテンションを上げる高田聖子。複数の子供の声のうちの一人の女の子を演じた原菜乃華は「誰だ!?」と色めき立つほど良い。

 そして後半、全てを持って行く宇野祥平。宇崎竜童の関西弁は「TATTOO【刺青】あり」('82)を想起した。非ネイティヴの方全員関西弁は合格でしょう。

 こんなに豊かな演技空間をかっちりとした画(撮影・山本英夫)で魅せてくれた日本映画は久しぶりだ。かつての松本清張原作、野村芳太郎監督の諸作品に匹敵する。

 本年随一の傑作。お勧め。

 

補足。俊也の叔父役が宇崎竜童、母親役が梶芽衣子。あとで気がついたが増村保造監督「曽根崎心中」('78)の徳兵衛とお初じゃないか!