映画和日乗

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「アララトの聖母」監督アトム・エゴヤン at パルシネマしんこうえん

 見逃していた昨年度公開作品。
 70年前のニューヨーク、90年前のトルコ、そして現代のカナダと、時空間を往来するパズルのピースを拾い集めるような複雑な構成。
 そのパズルを集めると、90年前のトルコにおける、クロアチア人大量虐殺から生き延びた一人の画家の描いた絵の謎に突き当たる。
未だトルコ政府が否定するクロアチア人への民族浄化=ジェノサイド。
これを描こうとするクロアチア人映画監督は語る。
 「何故、未だ我々は憎まれるのか」。
 その映画で暴虐の限りを尽くすトルコ軍総督を演じる在カナダのトルコ人俳優は、クロアチア人の製作助手の青年に言う。
「こうしてカナダで生活しているんだ。仲良くしてお茶でも飲まないか?」
 しかし、青年はそれを拒否し、トルコで何が起こっていたかを自分の眼で確かめるべくビデオカメラを携えて旅立つ。
青年は現地で撮ったというアララト山の風景のフィルムを携え帰国するも、税関で止められてしまう。
税関吏はフィルム缶の中身を麻薬ではないかと疑い、フィルム缶を開ける…真実を知ろうとするとそれは一瞬にして消え去るかもしれない。
しかしまた、蓋を開けなければ真実は知り得ない。
負の歴史の追及の困難を見事に表現した一瞬。打ちのめされる傑作。

アララトの聖母 [DVD]

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