クリント・イーストウッドを超えるのは、クリント・イーストウッドしかいないほど映画監督の頂点に上り詰めた現代最高峰の巨匠の最新作。
1945年2月太平洋戦争末期、絶対防衛圏といわれた太平洋上の占領地を悉く失った日本の、初の国有領土での戦いとなった硫黄島の激戦を描く。イーストウッドの描写は、実に淡々とその事実のみを描きつつ、注意深く「米国礼賛」「日本侮辱」を避けて行く。例えば、砂地の下の洞窟に引っぱり込まれて殺された米兵を戦友が探しに行くカットで、死体を見つける表情はあっても死体は写さない。それは監督の慎みではなく、別のシーンでは洞窟で手榴弾自決した日本兵の割れた顔、散り散りになった肉片は延々と捉える。
そして驚嘆すべきは、この映画が当時のアメリカの大衆状況を冷ややかに突き放している点だ。戦死した兵士達、そして生きながらえつつ悪夢から逃れられない帰還兵達に対して、どれほどまでに国家国民が理性に欠け、無理解であったかを延々としつこいほどにシーンを積み重ねて行く。決して批判がましくクローズアップするポイントは見せないのに、それでもこの大衆の軽佻浮薄ぶりは、戦争の本質と、更に想像力を逞しくすれば広島・長崎の原爆投下の非道から、ベトナム敗戦そしてイラクでの失敗に至るまで、アメリカという国家が何故過ちを繰り返し続けるかを暗に示している。
この映画、例によって一切カタルシスはない。それでもなお映画として鈍く輝き心に重く響くのはこれが「真実」だからである。映画のエンドロールで観る側がそれを納得せざるを得ないのは、そこに流れる硫黄島の実際の戦闘風景と兵士達の顔のスチールが、今観た映画の全てと実に酷似しているという迫真性によって証拠づけられているからだ。あの星条旗の写真を撮ったカメラマンなど瓜二つではないか…。
傑作、そしてエンドロールの最後まで席を立たずにご覧になることをお勧めする。
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