映画和日乗

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「リコリス・ピザ」監督ポール・トーマス・アンダーソン at シネリーブル神戸

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  P.T.アンダーソンの傑作「ブギーナイツ」('97)は大好きでいまだにDVDで見直す。本作は「ブギーナイツ」の時代設定、1970年代末より少し前、1973年の物語。

 15歳と25歳の恋、ストーリーはどうと言うことはなく、細部と時代の再現度を楽しむつくり。そこは恐ろしく徹底していて、まず登場人物の端々に至るまでよくこんな顔を集めて来たなという位時代性を物語る顔ぶり。そしてニキビもそばかすも隠さないおぼこさ。そして当然ながら携帯電話も電子メールもない時代の唯一の通信手段、電話というものが生み出す人間関係を微に入り細に入り描く。これは電話についての映画でもある。電話で推し量る異性の気持ち。電話のベル音がもたらす興奮。

 キネマ旬報7月下旬号の渡辺幻氏による「ぼくのアメリカ映画評」での本作の解説にある、ポール・トーマス・アンダーソン監督作に共通するのは「一目惚れの奇跡」による物語である、という発見は慧眼。

 また、こういうサイトがあって、なるほどなと。

www.banger.jp

 ここには書かれていないが、ゲイリー(クーパー・ホフマン、嗚呼フィリップ・シーモアの息子だと!)が警察に誤認逮捕された時、警官に「アティカ送りだ」と言われる。

 アティカ(=アッティカ刑務所のこと)、「狼たちの午後」('76)でアル・パチーノが「アティカ!アティカ!」と煽るように叫んでたな。「狼たちの午後」が同性愛を扱っていたが、ほぼ同時代の本作でもその一端が描かれる。当時の彼らの生きにくさにも目配りが効いている。


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 ラストはある程度想像がついていたが、それでも駆けて行くアラナとゲイリーには心が踊った。彼らが読んでいる新聞のポルノ映画の広告は「ブギーナイツ」へと連なる。

 日本人女性が二人出で来るが、P.T.A監督のパートナーの義母が日本人だとのこと。

『リコリス・ピザ』日本人キャスト安生めぐみの覚悟|シネマトゥデイ

 IMDbによると35mmフィルム撮影でプリントは70mmブローアップ版もあると。偏執的な凝りようである。ナイトシーンがざらついていて、まるで「記憶の中の夜」のように見える。

 観る人を選ぶかも知れないが、たまらなく愛おしい傑作。いま「時代」を描かせたらP.T.Aの右に出る者はいない。