映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「なれのはて」監督・粂田剛 at 神戸アートビレッジセンター

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 2012年から19年、7年間にわたるフィリピン在住の四人の日本人を追ったドキュメンタリー。2020年からコロナ禍ということを鑑みると、映画を完成させるタイミングが状況によって決められてしまったのかも知れない。

 貧しさ故に過酷な生活を強いられている人はどこの国にもいる。ここに登場する人々は各々の事情、つまりワケ有りで異国にいる。決して褒められた事情ではなく、身を持ち崩した、というのが的確だろう。

 皆一様に歯が無い。滑舌が悪く、ところどころ何を言っているのか聴き取れない。その顔はしまりがなく目はどろんとしている。年齢が若い人で58歳、あとは60代だ。世代的に私に近い。

 ということはバブル期が20代。憶測に過ぎないが「良い目」を見た人もこの中にいるはずだ。フィリピンパブ黎明期、ハマったのは宜なるかな、である。

 あの時代以降、経済の下降と政治の停滞は日本人を見えない紐で縛り続けている。敗残者は見下され、二度と這い上がれない。

 這い上がれなくても良い、せめて何ものにも縛られずに生きたい。それがフィリピンの地にあったのだろう。独り身で体が不自由でも、困窮し意気地がなくても誰かが助けてくれるし、見下されるという事がない。女性は明るく優しい。

 それ故か諦観には満ちているが深刻に悩んでいる風には見えない。一人、撮影取材を途中から断る元ヤクザだけ抱え込んだ過去から逃れられないまま押し黙る時がある。

 粂田監督は繰り返し撮影対象人物から後退するかのように徐々に離れていって別れるカットを使っている。後ろ髪を引かれるかのようなそのカットが、対象者への心配と愛惜がない混ぜになって伝わって来る。

 本編上映後、監督の舞台挨拶があり、つい最近になって所在が分かった元ヤクザの弟へのインタビューが載っているのでパンフレットをお求めください、との事だったので早速ロビーで買い求めていたところ、監督から「有難うございます」と声を掛けられたので少しお話しすることが出来た。この手の日本人はもっと沢山いて、何人か映画には登場出来ない人にも取材したとのこと。

 勿論、ワケ有り故の映すな使うなだったようだ。