「シャドウ・プレイ」(2018)、「サタデー・フィクション」(2019、未見)とバジェットの大きい映画が続いた後、6年のブランクがあって本作。
「シャドウ・プレイ」の中国当局の検閲との闘いはメイキングの「夢の裏側」で知ったが(酷いもんだ)、本作でも「検閲に通るわけがない」という台詞が出て来る。
冒頭、2009年の傑作「スプリング・フィーバー」の時に撮られたと思しきシーンの断片を監督と思しき人物がMACのハードディスクから掘り出してモニターに映し出す。そして「スプリング・フィーバー」の主演俳優チン・ハオが編集スタジオに呼ばれる。
監督はこの断片を使って、追加撮影して一本の映画を完成させたいと言う。チン・ハオは十年前とは環境が違う、妻子を抱え生活もある。そして「検閲を通るわけがない」。
ゲイカップルを民生機のビデオで隠し撮りのように撮った「スプリング・フィーバー」
は中国国内では上映禁止処分を受けている。
それこそメイキングビデオのような始まり方だが、監督がロウ・イエ本人ではないので(マオ・シャオルイというロウ・イエの助監督だった人)これがフェイク・ドキュメンタリーだと気が付く。
さて、この「きっかけ」から2020年の春節前後の世界的パンデミックの発生源としての中国を映画撮影クルーの生活を通して描かれる。
漠然とした言い方だが、観たことのない種類の映画であり、あの忌々しいコロナ禍の文字通り渦中を描いた画期的な作品である。
咳をしていた映画クルーの一人がホテルの渡り廊下で倒れるショットは、これから大変な災厄が起きることを観ている観客である我々は既に経験しているだけに恐ろしいホラー映画並みの衝撃をもたらす。こういう映画体験は初めてなような気がする。
ロウ・イエ監督の映画にしては珍しく、当局への挑戦的なモチーフは抑制され、家族愛と、国民皆があの日々を手を携えて乗り越えた実際が描かれる。フェイク・ドキュメンタリーから後半の「実際の映像」へとすり替わる見事さに感嘆した。
先に見たジャ・ジャンクーの「新世紀ロマンティクス」も監督のフィルモグラフィーを辿る旅だった事と本作は無縁ではないと思う。中国国内で主体的なインティペンデント映画をつくる事が益々困難になっているのだろう。
それでもこうして過去の映像を繋ぎ合わせてでも新しい表現に挑む彼らを畏敬する。
佳作、お勧め。

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