神戸発掘映画祭2022のプログラムの一本。
初上映ということでワールド・プレミア。
映像作品「海でなくてどこに」 – Marylka Project
杉原ビザによってリトアニアからシベリア経由で日本の福井県敦賀市に到着したユダヤ人難民の足跡を追うドキュメンタリー。
杉原千畝を扱った映画・映像数多あるものの、当事者たるユダヤ人難民の証言を拾った映像資料は少ない。
ここに登場するマリア&マーセル・ウェイランドの姉弟の証言を資料によって裏付けして行く構成。
マーセル・ウェイランド氏はユダヤ系ポーランド人の、かの時代を詠む詩の翻訳者。
本作の企画者たる菅野賢治東京理科大学教授による姉弟へのインタビューは、朗らかな雰囲気に包まれているものの、「生き残った」ことの罪悪感に触れる一節に広島・長崎の被爆者とあい通じるものを感じる。
上映後のトークショーで映画とは無縁だったと語る菅野教授は、大澤監督のレクチャーを素直に受け入れ、制作中に亡くなったマリアさんの映像をその没後の時間経過の中に登場させないことを選択したと言う。その代替としての和紙を使った映像投影法は秀逸。
彼らの記憶の伝承は一本の映像作品に収められたものの、この映画をみた人でさえいつかは忘却するだろう、という詩的な映像に込められたエンディングは、人類が未だ繰り返している大量殺戮という大罪への一矢に見えて仕方がなかった。
広く見られるべき作品。