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「ミュンヘン」監督スティーヴン・スピルバーグ at MOVIX六甲

迫り来る恐怖、を描くことにかけては最高峰の映画監督、スピルバーグ
シンドラーのリスト」('93)「プライベート・ライアン」('98)で「殺すことと殺されること」の
恐怖を極限まで表現することに成功した彼の、更なる映画監督術としての挑戦、それは
この「ミュンヘン」に於ける「殺す心理と殺される心理」を画面に定着させるということ、ではなかったか。
1972年のミュンヘン・オリンピックでのイスラエル選手虐殺への報復として実行犯とそのバックヤードを
殲滅する特命を受けたイスラエル諜報機関員アヴナー(エリック・バナ)。その仲間として4名の工作員が集められる。
実行犯達の居場所を伝える、一筋縄ではいかないくせ者フランス人親子はおいそれとは情報提供してくれないし、
工作員のつくる爆薬は失敗ばかり、と華麗なるスパイサスペンスとは似て非なるリアリズムだが、
克明に描かれるのは国家間と異宗教の闘争を背負う一人の男の心の揺れと、引き金をひくことの怖れだ。
やがてそれは国家も宗教も背負わない殺しへと至るという展開となり、そのシーンの、映画全体とは
明らかに違う異質な突出には流石と唸らされる。
それはオランダ人娼婦を拳銃でも爆弾でもない武器で時間をかけて殺すシークエンス、このシーンの異質な、
どす黒い高揚感と絶望に「殺す心理と殺される心理」の闇を見る。
計算ずくの高等演出術に疲れたのか、ラストのセックスとヴァイオレンスの
カットバックの凡庸には呆れた。それでも力作164分、監督術の最上級テクニックは何度も言うが流石。

ミュンヘン スペシャル・エディション [DVD]

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