映画的日乗

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「ゾディアック」監督デイヴィッド・フィンチャー at MOVIX六甲

 1969年のサンフランシスコ、無差別、動機不明な連続殺人事件が起きる。犯人は自らをゾディァック(12星座)と名乗り、新聞社や雑誌社に犯行声明と奇怪な暗号文を送りつけて来るという大胆ぶり、時にテレビ番組の司会者を指名して電話インタビューにまで登場する。この事件を追う刑事と新聞記者、そして漫画家。が、14年後に至るまで真犯人逮捕には至らない…というお話し。
 ゾディアック事件と言えばかの名作「ダーティハリー」('71)の元ネタ。この映画では犯人はスコルピオ(蠍座)と名乗っていた。本作でも後半、「ダーティハリー」の完成披露試写会のシーンが登場する。「ダーティハリー」があくまで娯楽フィクションであったのに対して、本作は徹底したリアリズムで描かれて行く。殺人の恐怖の誇張も無ければ(その分却っておぞましい)、事件解決に向かうサスペンスやカタルシスも無いに等しい。が、それでも圧倒的にこの映画が優れているのは、関係者たちが事件解明に取り憑かれたあげく人格崩壊、家庭崩壊にまで至ってしまうという「不可解なる闇」の魔力をこそ描いているからだ。
 事件の闇に反して、この「取り憑かれた男たち」というのは実に人間臭く、爛々と目を輝かせている。
劇伴音楽による感情の増幅も極力排され、淡々と事実のみを追い続けるリアリズムに固執するフィンチャー演出は、優れたデザイン感覚に支えられたキャメラ(ハリス・サヴィデス)と絶妙のコンビネーションで157分飽きさせない。アメリカに於いても警察署同士の縄張り争い、愚鈍な官僚主義などがこういった未解決事件を生んでいることが良く解る一方、あれだけ筆跡鑑定に拘る描写が続くのに声紋鑑定が登場しないのは何故なのだろう、とは思った。
とまれ、力作、お勧め。
余談をひとつ、事件を追うサンフランシスコ市警のトースキー刑事(マーク・ラファロ)に対して「スティーブ・マックィーンが真似した刑事だ」という台詞が出て来るが、事実だとするなら「ブリット」('68)がそれなのかなぁ、つまりブリットのモデルが「ゾディアック事件」を担当して、更にその犯人が「ダーティハリー」の犯人のモデルになったのか、とあの時代を知る映画マニア的楽しみもある。

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  • 発売日: 2005/07/01
  • メディア: DVD