映画的日乗

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「最高殊勲夫人」監督・増村保造 at シネヌーヴォ

シネヌーヴォで開催中の若尾文子映画祭の一本。

cinemakadokawa.jp1959年大映。今はKADOKAWAが権利を持っていて、デジタルリマスターDCP上映、画質音声共に良好。

本作の脚本を書いた白坂依志夫著「不眠の森を駆け抜けて」によると、当時の大映の量産体制に於いて脚本は200字詰原稿用紙で220枚前後。察するにこれで90分から100分前後の上映時間であろう。白坂氏が初めて増村保造監督と組んだ「青空娘」('57)で増村監督は350枚書けと要求したそうだ。本作も恐らくそれ位の量であることは想像に難くない。それでいて95分に仕上がっている。東京駅丸の内側を正面に左手前のビル(丸ノ内ビルディング)屋上のロケシーンがあるが、それ以外ほぼセット撮影の豪華さ。

 膨大な会話劇、速射砲並みの早口の応酬である。三人兄弟と三人姉妹の政略結婚、その中で一際美しい末娘若尾文子だけややおっとりと話す。一つのシーンの始まりの冒頭に必ず本筋とは関係のないような小ネタ小芝居を入れてシークエンスをぎゅうぎゅう詰めにする演出。あの「東京物語」('53)の東山千栄子が慇懃な口調で喋り倒す楽しさ。

 戦後たった14年で超打算的な、ひたすら金目と社会的地位のステップアップをシニカルに描きつつ、アッパーミドルの本音丸出しなのが痛快。ここであけすけに主張される結婚を巡る打算は今もあるはずで、ただ本音と建前が戦後14年よりも戦後75年の今の方が大きく深く乖離してしまっているだけのような気がする。

 三女若尾文子にプロポーズした男を北海道に左遷する人事を夫の会社にねじ込む次女に夫船越英二が言う「あんた狂ってるよ」妻「そう、キチガイだけが出世するのよ」良い台詞だ、今は使えない。

 脚本家にしては男前で女優にもてて仕方がなかった白坂氏の経験による人類学的女性論。彼の著書を読むとそれはそれは凄まじかった事が分かる。