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「カード・カウンター」監督ポール・シュレーダー at シネリーブル神戸

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 ポール・シュレーダー監督2021年の作品。日本国内では最新作ということになるが、既に昨年「Master Gardener」なる作品を完成させている模様。

 

 マーティン・スコセッシがExective Producerに名を連ねているが、他にも夥しい数のプロデューサーの名前が並ぶ。ということは少額の投資金をかき集めたと想像される。

今のハリウッドで陰惨な米国の黒歴史に対する復讐譚にはなかなか金が集まらないことは想像に難くない。

 ポール・シュレーダーという映画作家は私には特別な存在だ。「タクシー・ドライバー」('76)で「出会ってしまった」世代で同じ思いでいる映画好きは多いと思う。

コンプレックスに苛まれる男の琴線に触れる作品を延々と作り続けている稀有な作家なだからだ。

イーストウッドがどんなに陰惨なストーリーでも自ら演じるキャラクターに神話性を纏うことで崇高な領域に昇華させるのとは対照的だ。

シュレーダーの描くヒーローは菅原文太高倉健かというほど復讐の怨念を爆発させて自滅する。

realsound.jp ↑ここにある「ライト・スリーパー」('92)を見逃しているのは痛恨。

 

 さて、本編。

冒頭のタイトルバック、小津作品を思わせる麻の布。シュレーダーは過去に小津についての評論もものしている。

軍刑務所の生活からカジノのカードゲームへ。いつものシュレーダーらしいナレーションを呟くのはテルと名乗る男(オスカー・アイザック)。

キャメラは小津よろしくフィックスで綴られる。頑迷なまでに人物の切り返しショットも続く。現代アメリカに小津。

シュレーダー、やはり私にはとても馴染み深い、映画としての体裁がとてもしっくりとくる。好みの色の、好みのデザインの服を着ているかのような心地の良さだ。

相変わらず、過去を引き摺る孤独な男の日々を描くシュレーダー。従ってカードゲームのスリルが主題ではない。時にテルはあっさり負ける。

そんな彼がラスベガスで知り合う青年カーク(タイ・シェリダン)との全米カジノの道行きが続く。カークの父親はテルの戦友、イラク戦争後自暴自棄になって自殺している。

P.T.A.の「ハードエイト」('96)のカジノ師弟関係を思い出す。

 

 

 突如VR映像で挟まれるテルの過去。それはアルグレイヴでの悪夢のような拷問の日々。

ja.wikipedia.org

 テルはこの事件の加害者として8年服役していたという。アルグレイヴの上官ゴード(ウィリアム・デフォー)は罪を逃れてのうのうと危機管理コンサルタントのような商売をしている。

ゴードに対して死んだ父の仇を取りたいというカークに当初は無関心を装うテル。

 孤独は自らすすんでなるものだ、という意味の言葉を呟くテル。またこうも言う。「誰かに許される気持ちと、自分を許す気持ちはほぼ同じだ」

 やがて沸々と復讐心が蘇り、どこの誰かもわからない女性との不確かな恋などあっさり捨て、テルが取る行動とは。 

ジョン・フリン監督、シュレーダー脚本の「ローリング・サンダー」('77)では壮絶な殴り込みがあったが、今回は「壁の向こう」にそれを隠す演出。

シュレーダーも2021年当時は75歳、些かの枯れ具合もありつつも一貫して信念のように揺るがない人間の孤独を描くというモチーフには深い畏敬の念を抱く。

 

 観る人と世代を選ぶ映画かもしれないが、私にはとても居心地の良い、しっくりと馴染む佳作。

サウンドトラックも秀逸。

Roulette

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