映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「ロストケア」監督・前田哲 at シネリーブル神戸

映画『ロストケア』2023年3月24日(金)全国ロードショー

 キネマ旬報4月上旬号の特集によると前田哲監督の10年来の企画だそうだ。撮影は3週間、私には製作費の想像がつく。主演の二人の出演料を引くとそれはあまりに乏しい。

様々なロケセットを製作した美術部の奮闘ぶりが画面から伝わって来る。

 原作はミステリー仕立てとの事、映画ではその点は拭っていて「犯人」は早々に割れる。斯波(松山ケンイチ)がもの凄く優秀で善人の介護士、同僚が「苦労している、あの白髪を見れば」と言うが、綺麗なグレイヘアで寧ろお洒落に見える。

 その「苦労」の故は中盤に明かされ、斯波の父(柄本明)への壮絶な介護にあった。柄本明の演技は昨年の「ある男」「夜明けまでバス停で」に続いて全てを「持って行く」迫真。

 原作はどうなっているのか分からないが、裁判に於ける斯波の弁護側が一切出て来ない。弁護側がどういう論点乃至減刑を求めているのかが分からないので検事(長澤まさみ)が淡々と裁判を進めて行く印象。加えて、どんなことがあろうとも検事がこれから起訴する被告の言葉で泣くことは無いと思う。安楽死問題を扱った周防正行監督「終の信託」(2012)の大沢たかおが演じた検事、あれが検事だろう。