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「ケイコ 目を澄ませて」(2022)が良かった三宅唱監督の最新作。
原作は瀬尾まいこ(未読)。
前作と同じ16㎜撮影(撮影:月永雄太)で、極力フィックスだが絶妙なタイミングで動き出す。嫌な画は一つもない品の良さ。嫌な、というのは嫌なものが映っているという意味ではなく、清潔に整っているという意味だ。
さて、個人的にPMSという症状について不見識だったことを恥じる。この映画によって知る事となった。一方、パニック障害については身近に体験者がいる。
PMSによって仕事を失う藤沢(上白石萌音)と、パニック障害によって転勤する山添(松村北斗)が東京下町の、小さな町工場という職場で出会う。
周りにはそれぞれ事情を抱えている人がいて、彼らは一様に二人に優しく接している。
日本の都会人の寂しさと、侘しさ。かつては市川準監督がこういう世界を描いていた。
ただ、市川準が常に東京という都市への慕情を塗り込め、老成した人生観を滲ませていたのに対し、1984年生まれの三宅監督はそういった懐古調では唱わない。
何か、ゆったりと加減の良い湯に浸かっているかのような心地良さ。
繊細ながらコミュニケーションを重ねることで徐々に内から外へと向かう二人は、抱き合うでもなくむしろ別々の放物線を描くように恢復して行く。
塩梅の良いハッピーエンド。
ちょっと巧過ぎ、というのは語弊があるか。ふた昔前なら「毒がない」などと攻撃されたかも知れないが、現在の日本映画でこの気品は貴重。
ラスト、エンドロールがダブるあのフィックス長回し、キャッチボールの妙もまた。
佳作、お勧め。