映画的日乗

映画、食、人。西に東に。

「四万十〜いのちの仕舞い〜」監督・溝渕雅幸 at 元町映画館

www.inochi-shimanto.com高知県四万十川流域で訪問診療を行う小笠原医師を、四季の移ろいの中で追って行くドキュメンタリー。過疎、高齢化は四万十に限らず全国、全世界の課題だ。高齢化に限って言えば都会の方が深刻らしい。実際対応できる医師はここ高知県では足りていないらしい。というのも医師の訪問診療に対する報酬が補償されていないからだと、上映後の溝渕監督の談話で知らされた。つまり、小笠原医師は善意=医師としての修業として行なっているのだ。

看取りの瞬間を捉える節度あるカメラが良い。四季の区切りに挟まれるイラストと川柳が暖かい。

 

「否定と肯定」監督ミック・ジャクソン at 宝塚シネ・ピピア

www.bleeckerstreetmedia.com  ホロコースト否定論者がホロコースト研究者を名誉毀損で訴える。英国の法律では原告ではなく、被告に立証責任がある、という。英国ではなく、米国の女性がその被告となり、大弁護団と共に闘うというお話し。

 ホロコースト研究者、デボラ(レイチェル・ワイズ)がしばしば冷静さを欠く、感情的なキャラクターという点が面白い。そしてそんな彼女を諌める弁護士の一人、リチャード(トム・ウィルキンソン)が実にカッコいい。法廷では徹底して理詰め、スタッフルームでは煙草と酒を手放せない慇懃な英国人。彼以外にも冷徹な弁護士や、若手の弁護士見習い女史がいるが描き方がおざなりな印象。更には否定論者でレイシストの原告アーヴィングが、かなりチンケな論調なのでそんなに大弁護団で挑む大きな闘いに見えないのが難点。演じているティモシー・スポールの毎度見事な化けっぷりが勿体無い。とまれ、我が国の目を覆う知性崩壊に比べればこうして生真面目に検証されるだけでもかの国は大人であることが分かる。

「スリー・ビルボード」監督マーティン・マクドナー at OSシネマズミント神戸

www.foxsearchlight.com脚本兼任のマーティン・マクドナー監督は英国演劇界出身。資料によると米国をあてどなく旅をしていた途中、バスの車窓から見えた二枚の看板(ビルボード)に書かれていた怒りのこもったメッセージを目撃したことから本作の着想を得たという。

 開巻、車を運転するすっぴんと思しきフランシス・マクドーマンド演じるミルドレッドの無表情。即座に「ファーゴ」('96)の無表情だが素っ頓狂な受け答えをする警察官を演じたマクドーマンドを想起する。案の定マクドナー監督は、「ファーゴ」のマクドーマンドをイメージして脚本を書き、マクドーマンドに出演を断られたらどうしていいかわからなかった、と発言している。先日の「キングスマン:ゴールデンサークル」といい、コーエン兄弟って影響大きいんだと再認識。

 娘をレイプされ、焼き殺された母親の憎悪、復讐心。一度燃え上がった業炎は消えず、警察署の怠惰を批判する三枚のビルボードを掲げるところから物語は始まり、ムラ社会の事なかれ主義と理不尽、米国南部に公然とはびこる人種差別主義が業炎を強引に鎮火させようとするものの、折れないヒロインの復讐の火は更に燃え盛る。もう惚れ惚れするほどの最高級の演技合戦だ。しっかりと描きこまれたキャラクター、心情の転生を見事に演じるウディ・ハレルソン、そしてサム・ロックウェル!

 憎悪の連鎖を断ち切る一発の銃弾、そしてそこから贖罪の何たるか、が語られ、赦すということの意味を問いかけられる。ミルドレッドが自らの正義を貫き通しながら、心無い言葉で身体障害者を傷つけたことに罪を見出す瞬間に心震えた。そう、完全に正しい人間などいないのだと。

マクドーマンドとサム・ロックウェルの演技を堪能するだけで充分お釣りが来る、久しぶりにもう一度見たいと思った傑作。キネマ旬報2月上旬号の越智道雄氏の米国の地域性とその地域の民族性を解説している文を読んでから観ると合点行く点が多いだろう。

お勧め。

「希望のかなた」監督アキ・カウリスマキ at 元町映画館

www.kibou-film.com35㎜フィルム上映。

「ル・アーブルの靴みがき」から6年、再び欧州に於ける難民問題を扱うカウリスマキ監督。その6年の間に中東の不毛な戦争は深刻化し、この映画でも船でフィンランドに逃げて来たシリア難民の主人公は滔々と自国の事情と避難の経験を語る。彼の当地フィンランドでの日常(職探し、差別)と、生き別れた妹を探す過程が例によって淡々と描かれる一方、妻と別れ、ギャンブルに滅法強い初老の男の行動が並行する。この男、左前のレストランを買い取りオーナーとなる。そのレストランのゴミ置場に寝ていたのがくだんのシリア難民。ここで両者の物語がシンクロし、難民君はレストランに雇われる。勿論不法就労だがオーナーは偽造の身分証を簡単に作ってやる。この辺が「靴みがき」と同じなのだが、そんなに簡単にできるのか?

 シリアスなドラマが一転、「寿司がブームだから」レストランを寿司屋に改装する辺りからコントになり、後半はさほど話としては転がらない。脚本としては単純だ。カウリスマキ調の演出でなければ凡庸とも言えるが、やはり全てを統御しているクリエイターは見せ切る力量が違う。ラストカット、見事だ。