www.imdb.com 邦題は印象をミスリードしている。キャビアの乗ったカナッペ以外ロシア料理は殆ど出て来ない。
監督はデンマーク人で「17歳の肖像」('09)の人。本作では脚本も兼任。
DV夫から二人の息子を抱えて逃げ出したクララ(ゾエ・カザン)。この一文無しでNYを彷徨うクララ親子と学習障害と思われる青年を助け、心の傷を負った人々のセラピーサークルと貧しい人への無償食堂を主催している救急外科病棟の看護師、アリス(アンドレア・ライズボロー)。
彼女はいつ休んでいるのかというほど弱者の為に駆けずり回る。そして同僚の無神経な言葉にポキリと心が折れてしまう。
女性監督らしく視点はあくまで他者への思いやり。
あらぬ疑いをかけられて辛酸を舐めた料理人マーク(タハール・ラヒム)は徹底的に他者、特に女性に優しい。料理店のテーブルの下に隠れて眠るクララ親子にキャビアとシャンパンのサーヴィスするところなどは「理想的な男性」そのもの。
またどんな時もダンディズムとユーモアを忘れないロシア料理店の支配人(ビル・ナイ)も理想の紳士像だろう。
一方この監督、警官のDV夫リチャード(エスベン・スメド)には容赦ない。完全に人格が破綻していて次男など父親の顔を見た途端嘔吐してしまう。登場するだけで禍々しさを表出したこのエスベン・スメドという役者は凄い。
NYという街は凍てつく冬のように厳しいが、助けて、と声さえあげれば暖炉のあるレストランのように暖かい、そんな人情に溢れているという物語。クララの行動には「万引き家族」('18)の影響をちょっと感じた。
後半、幸福への階段を上りつつある人々の笑顔と洒落たラスト。禍々しさに満ちた2020年の最後に観るにふさわしい好編。
佳作、心温まりたい人にお勧め。