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多作のフランソワ・オゾン監督最新作。チェックしてみると2013年の「危険なプロット」から10年、サボって観ていなかった。
さて、冒頭はフィックスのカッチリした画面の奥、エマニュエル(ソフィー・マルソー)が不穏な電話を受けるところから始まる。
父親アンドレ(アンドレ・デュソリエ)の脳梗塞。エマニュエルと妹パスカル(ジュラルディーヌ・ペラス)が病院に駆け付け容体の深刻さを目の当たりにする。
アンドレの妻(シャーロット・ランプリング)が厳かに登場するが機嫌の分からない無表情でどうとでもなれ、と言いたげな冷たさ。
かつて世界を席巻した1980年代のアイドル。フランス人女優が世界的なアイドルになるなんて現状彼女で最後じゃないだろうか。1966年生まれか。エレガントな歳の重ね方が画面から伝わる。
そんな彼女が父の介護に奮闘するが、父の希望は尊厳死。当初娘はそれを無視するも、父はプリンを投げつけて抗議する。父の決意を認識した娘はスイスにある尊厳死を幇助する組織の人物と面談する。
観ている間じゅう似たような映画があったな、と思い出せずにいたが、検索したら思い出した。「92歳のパリジェンヌ」(2016)。こちらは母と娘。
これが日本だと「PLAN 75」(2022)のような暗く寂しい楢山節考になってしまう。
オゾン監督はオーソドックスな演出とキレの良いカッティング。ユダヤ人家系の父の来し方、妻との冷たい関係の真相。エマニュエルは父の余命を知ることでそれらを知るという脚本(オゾン監督兼任)の妙味。
面倒な父と娘の関係。娘エマニュエルの、そのストレスの発散の仕方がポジティヴで爽やか。
アンドレをスイスに運ぶムスリムの運転手の言葉がシンプルで良い。また、尊厳死を思いとどまった人のエピソードも、より佳き人生には不可欠な要素とは何かを教唆してくれる。
本作によるとフランスでは尊厳死は非合法らしいが、さて将来は。その問いを素っ気ないエンディングが語りかける。フランソワ・オゾン匠の技。巧いわ。
佳作、お勧め。